その12(№5199.)から続く

 

今回は最終回。今回はこれまでのグリーン車の歩みを振り返る総括として、これからのグリーン車はどうなっていくのか、それを占ってみようと思います。

以前に当ブログでは、「グリーン車の『グリーン料金』は何に対する対価なのか?」ということを検証したことがあります(こちら)。そのときの結論は、「『セレブリティの一般乗客からの隔離』と『普通車より快適性に優れた空間の提供』のいずれかに対する対価がグリーン料金の本質であるところ、いずれに重点を置くかはJR各社の考え方によって異なる」というものです。特急列車(新幹線を含む。以下同じ)に関していえば、前者を重視しているのがJR東日本とJR東海、後者を重視しているのが他の4社ということになります。

 

求められるグリーン車の将来像は、特急列車と普通列車で異なるものと思われますので、分けて論じることにします。なお、いわゆるジョイフルトレイン、クルーズトレイン、観光列車に分類されるものでグリーン車とされるものについては、当記事の対象外とします。これらは確かに快適な車内環境の提供に重点が置かれますが、これら車両がグリーン車とされるのは、収益性確保のための客単価維持という営業的な理由があるものと思われますし、一般乗客がチケットを購入して乗車できる車両はむしろ少ないので、その意味でも一般列車のグリーン車と比較することは不適切だと考えるからです。

 

【特急列車の場合】

管理人の私見ですが、グリーン料金は上記の2つの点に対する対価と考えています。そして、どちらに重点を置くにせよ、絶対におろそかにしてはならないと思われるのが、客室の静粛性。

この点はどの会社も意を払っており、乗り心地の改善も図られていますが(普通車には装備されていないヨーダンパがグリーン車には装備されているなど)、問題は、この静粛性は時として「人」、即ち他の乗客によって破られる危険性が多分にあること。つまり、客室内で宴会を始めるようなお客と乗り合わせると大変なことになりますが、このあたりは、個々の乗客のモラルに委ねられるところがあります。

近鉄が名阪特急用に80000系「ひのとり」を登場させ、プレミアム・エコノミー各クラスで、バックシェルをつけたリクライニングシートを採用し、しかもそれが乗客により任意に回転できることで、鉄道趣味界でも大きな注目を浴びています。これからのグリーン車の、快適性を高めるために有効と思われるのは、バックシェルつきのシートを採用すること。バックシェルつきシートの利点は、バックシェルよりも後ろに前席の背もたれが倒れることがないので、後席に気兼ねなくリクライニングができること。バックシェルつきのシートであれば、座席のリクライニングをめぐる、声掛けの必要などの不毛な論争を一切封じることができますので、是非JR各社には採用して欲しいところです。できれば、車内で仮眠したい乗客のために、一部の高速バスで採用されている、頭部を覆う「フロントシェル」(名称これでいいの?)も採用してほしいところ。航空機のアッパークラスも、常連客はCAのかいがいしいサービスよりも、フライト中ゆっくり寝かせてもらうことを希望することが多いそうなので、グリーン車の乗客もそういう人が多いでしょうから、仮眠用のフロントシェルは、喜ばれるのではないかと思います。

さらに別の意味で快適性を求めるなら、専属アテンダントによるサービスを拡充することもあり得ます。イメージとしては、かつての「スーパービュー踊り子」のアテンダントや、JR九州のアテンダントによるドリンクサービスなど。しかしこの方向は、既にJR東日本がグランクラスで実現させており、グランクラスのステータスを維持するためにも、少なくともJR東日本においては、そのようなサービスは期待できないと思われます。他社でも、観光列車のようなものを別にすれば、マンパワーが追い付かない危険性があり、難しいものがあると思われます。「ハイパーレディ」の夢よもう一度と思ってしまうのは、愛好家のわがままでしょうか。

 

【普通列車の場合】

普通列車に関しては、東京圏の普通列車が平成16(2004)年に「Suicaグリーンシステム」を採用し、グリーン料金を事実上値下げしたときから、優等車としての威厳よりも、普通車以上の快適性を重視する位置づけになったように思われます。

最近、横須賀・総武快速用のE235系1000番代が落成し、同系としては初となるグリーン車がお目見えしていますが、このグリーン車、それまでの東京圏の普通列車用グリーン車とはそれほど大きな差異はないようです。

グリーン車における「快適性」は、特急列車ほどシビアではないでしょうが、問題は普通列車の場合、グリーン車が「自由席」であること。つまりグリーン車が満席であれば、その「快適性」をそもそも享受することすらできない(料金を支払っているにもかかわらず)可能性があります。

もちろん、このような場合には、救済手続きが用意されています。それは、「不使用による払い戻し」。この場合は乗客の都合による払い戻し(キャンセル)ではないので、無手数料、つまり全額が払い戻されます。

ただしこれには条件があって、その条件とは、グリーン券に乗務員から「不使用証明」を受けること。かつては車掌がこの「不使用証明」を行ってくれ、グリーン券にスタンプを押すと、着駅などで無手数料の払い戻しを受けることができました。現在でも同じ手続きはアテンダントが行ってくれますが、その手続きが煩わしいことは依然としてネックとなっています。

それならいっそのこと、グリーン車を指定席にしては…という提案がなされることもあります。確かに自由席ではなく指定席なら、どこからお客が乗ってどこで降りるかは分かりますから、アテンダントも乗務の負担が軽減されます。

しかし、それには「連結列車の数が沢山ありすぎる」ことが壁として立ちはだかってきます。東海道線、横須賀・総武快速線、高崎線、宇都宮線、常磐線…これらの普通列車のグリーン車を全て指定席にしたら、いくらJRが誇るマルスシステムがあるとしても、果たしてさばききれるものでしょうか。

そうすると、普通列車グリーン車全車指定席化というのは非現実的です。

しかし、平日朝晩など、特に混雑する列車の1両だけを指定席として運用することくらいなら、可能なように思われます。あるいはそういう「着席指向」の人は、ライナー列車や特急に誘導するんでしょうか。

 

将来のグリーン車は、特急・普通を問わず、豪華さよりも快適性が重視されていくように思われます。普通車よりも快適な車両であれば、乗客もグリーン料金を払う気になると思うからです。それ以上の、航空機のファーストクラスのような「至れり尽くせりのサービス」を望む人は、それより上のグランクラスがありますから。

 

何だか最後は締まらない感じになってしまいました。

しかしこれからも、快適な移動空間、静かな移動空間を求める人たちのために、グリーン車は走り続けると思われます。オールモノクラスにしようという動きもあったようですが、それは利用者のニーズを正しくつかんでいるとは思えません。

これから先、どんなグリーン車が登場するのか、楽しみにしたいと思います。

 

-完-

 

※ 当記事はアップの時点ではブログナンバーを振りません(後で並べ替えるため)。

 

【追記】(令和2年7月9日 22:12)

当記事にブログナンバー5206を振ります。