2020年6月19日、長らく運休していたJR九州のD&S列車の運行が再開しました。
D&S列車とは「デザイン&ストーリー列車」のこと。
いわゆる観光列車です。
ご存知のようにJR九州は多くの路線でこのD&S列車を運行しており、多くの観光客を集めてきました。
しかしながら、昨今の「公衆衛生上の非常事態」に伴い乗客が大幅に減少したことから4月24日から約2ヶ月に渡り全D&S列車が運休という前代未聞な事態に陥りました。
その影響を大きく受けたのが熊本県の八代と鹿児島県の隼人の間を結ぶ肥薩線。
肥薩線といえば「かわせみ・やませみ」「SL人吉」「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」といったD&S列車の宝庫。
逆に通常の列車は少なく、特に県をまたぐ人吉~吉松間は「いさぶろう・しんぺい」を除くと1日1往復しか走らない超閑散路線なのです。
そこで、乗客の利便性を損なわないよう、人吉~吉松間に関しては代替の臨時普通列車を2往復運行することとなりました。
運行ダイヤは通常の「いさぶろう・しんぺい」の人吉~吉松間のダイヤを踏襲したもの。
しかも、使用車両は原則として「いさぶろう・しんぺい」用のキハ140-2125で固定されており、実質的には「いさぶろう・しんぺい」は人吉~吉松間で運行を続けていたことになります。
[例:いさぶろう1号と臨時普通列車9261Dのダイヤ比較]
1091D いさぶろう1号 人吉(10:09)→大畑(10:24/10:30 | 6分)→矢岳(10:54/11:01 | 7分)→真幸(11:15/11:21 | 6分)→吉松(11:30)
9261D 臨時普通列車 人吉(10:09)→大畑(10:24/10:30 | 6分)→矢岳(10:53/11:01 | 8分)→真幸(11:13/11:21 | 8分)→吉松(11:30)
JR九州からD&S列車が消えても唯一D&S列車の車両で運行を続けていたこの臨時普通列車。
今回乗車してきました。
※緊急事態宣言解除後の乗車です。
それでは前置きが長くなりましたが、さっそくその様子をご紹介したいと思います。
まずは今回乗車する列車の始発地・人吉駅にやってきました。
人吉は相良藩の城下町だったことから、駅舎はお城風です。
駅前には天守閣を模したからくり時計があって、昼間時間帯の毎時00分に作動します。
今回は見る時間が無いのですが…
駅舎に入ると、こちらもレトロな感じ。
時刻表を見ると吉松方面は1日3本、そのうち2本はいさぶろう号。
臨時普通列車が必要なわけです。
(実は八代方面もD&S列車を抜くとそんなに本数多くはないのですが…)
改札口にはすでに吉松行きの臨時普通列車が表示されていました。
到着を待ち受けるべく、中へと入ります。
すると、目の前の1番線にいたのがこちら。
この特徴的な窓の形は…
やっぱりキハ220-1102ですね!
この車両は2011年まで鹿児島中央~指宿間を走る特別快速「なのはなDX」の指定席車両として使われていたもの。
運用終了後は色を黄色から赤色に塗り替えられて肥薩線の普通列車に充当されていますが、
車内の回転式非リクライニングシートや展望スペースはそのまま残されています。
それでは、3番線に移動します。
10:02、八代方より特徴的な古代漆色の列車がやってきました。
やはり、事前情報通り、いさぶろう・しんぺい用キハ140-2125の1両編成でした。
熊本から「いさぶろう1号」のダイヤで回送されてきています。
両数を除くと普通のいさぶろう・しんぺいに見えますが、方向幕が「普通」になっていること、
サボが専用のものでなく、普通列車と共用のものとなっていることが見た目での違いです。
車内に入ります。
中は木製のボックスシートが並んだ独特な雰囲気。
もちろん展望スペースもあります。
ここ数年間いさぶろう・しんぺいには乗っていなかったのでなんだか懐かしいです。
ちなみに車内でわかる普段との違いがこちら。
号車表記が抜かれているのと自由席表示。
いさぶろう・しんぺいには自由席も設けられていますが、基本的に併結されたキハ47改造車にあるロングシートのみ。
このキハ140-2125には自由席は設定されなかったので、「乗車券のみで」座れるのは珍しいのです。
それでは、そろそろ発車の時刻。
好きなボックスシートを選んで座ります。
観光案内もなく、普通列車と同じアナウンスが流れる車内。
ガラガラかと思いきや各ボックスに1人は乗っていました。
緊急事態宣言も解除されたので観光客でしょうか…
発車するとまずはくま川鉄道湯前線と分かれ、
球磨川を渡ります。
段々と山道を登っていくと、別の線路が現れました。
これが見えるとまもなく最初の停車駅・大畑です。
一番奥の線路はカーブを描きながら高度を上げて林の中へ消えていきます。
これはループ線。
勾配を登るために線路をループ状に配置された線路で、全国に数例しかなく、特にスイッチバックと組み合わせたのは全国でもここだけだとか。
ループ線が見えなくなってすぐ、大畑に到着しました。
6分停車です。
少々降りてみることにしました。
大畑駅に停車するキハ140-2125。
やっぱりちょっと短い感じがします。
こちらは大畑駅の駅舎。
開業当時の木造駅舎となっています。風情がありますね。
6分の停車時間はあっという間。
列車に戻ります。
列車は先程と逆向きに走り出し、まずはスイッチバック線へ。
停車後再度向きを変え、ループ線へと入っていきます。
とはいえ、ループ線、乗っているとあまり実感はわかないもので…(笑)
地図アプリを見つめてぐるっと一周していることを確かめていました。
列車はさらに急勾配を登っていきます。
途中には棚田も…
大畑駅から23分かけて次の駅、矢岳に到着です。
8分停車なので降りてみます。
矢岳といえばやっぱりここ。
「人吉市SL展示館」です。
D51 170号機が展示されており、現在SL人吉に使われている58654も以前はここに展示されていました。
他の乗客の方も降りてきてSLの写真を撮っていました。
この風景はいつものいさぶろうでも同じ光景ですね。
こちらは駅舎。
こちらも木造駅舎で雰囲気がありますね。
それでは、そろそろ列車に戻ります。
列車は熊本県と宮崎県の県境を越え、矢岳第一トンネルへ。
ここが「いさぶろう・しんぺい」の列車名の由来となったトンネルの扁額が掲げられているトンネル。
それをすぎると肥薩線人吉~吉松間最大のハイライト・日本三大車窓です。
霧島連山とえびの高原を見下ろす絶景が楽しめます。
普段はここで停車して景色を眺める時間があるのですが…
あくまでもこれは「臨時普通列車」なのでそのまま通過します。
列車は一旦真幸駅の上を通過します。
駅舎から地元の方が手を振って出迎えてくださいました。
スイッチバックに入って…
向きを変えて真幸に到着です。
ここは肥薩線唯一の宮崎県の駅。
日本三大車窓で停車しなかったので普段よりも早く到着しました。
いつもより2分多い、8分停車です。
まずはホームの鐘を鳴らします。
幸せはいっぱいほしいのでもちろん3回です(笑)
その後は駅舎へ。
通常時と同じで地元の方が特産品の販売を行っていました。
駅舎を反対側から。ここも木造駅舎です。
猫も住みついています。
かわいい…
こっちにも。
ホームに戻ります。
一番端には1972年にここで発生した山津波で運ばれてきた石が展示されていました。
こんな大きさの石が流れてきたんですね…
記念石の近くからホーム全景。
長大編成が止まることもあったためホームは長いです。
あっという間に時間は流れ、まもなく発車時刻。
列車に戻ります。
向きを変えて発車すると肥薩線列車退行事故の山神第二トンネルを抜け、下っていきます。
この間に宮崎-鹿児島県境を通過。
跨線橋をくぐり、終点の吉松駅に到着しました。
小林方面の吉都線との分岐駅です。
普段ならここで鹿児島中央行きの特急「はやとの風1号」と接続していますが…(ただし運転日注意)
今日は運休になっているためその姿はありません。
最後にキハ140-2125の写真を撮って、ホームを後にします。
吉松駅の駅舎。
結構大きいです。
お隣には鉄道の資料館もありました。
あんまり時間がなかったのでちょっと覗くだけ…
さらにお隣にはSLのC55 52号機が静態保存されています。
以前ここに吉松機関区があり、鉄道の要衝だった名残です。
今回は「いさぶろう・しんぺい」代行の臨時普通列車に乗車しました。
減車こそされていますが使用されているのは「いさぶろう・しんぺい」用車両。
というわけでそこまで変わった印象はありませんが、車内販売も観光放送もないことで、これが通常とは異なる列車なのだということを感じさせてくれました。
6月19日からは再び「いさぶろう・しんぺい」として運行を再開します。
また肥薩線が賑わいを取り戻すことを祈っています。
[追記]
しかし、あんなことになるとは…
それでは。
こちらもどうぞ。
★乗車データ
9261D 普通 吉松行き 人吉(10:09)→吉松(11:30) キハ140-2125(いさぶろう・しんぺい用改造車)