路線概要

(画像は小田急電鉄ホームページより引用。)

 

 新宿から南西へと路線を伸ばし、神奈川県・小田原駅まで結ぶ路線が小田急小田原線。山手線から放射状に延びる民鉄7社の中では開業が最も遅く(1927年)、また、新宿~小田原の82.5kmという長距離を一度に開通させたことは特筆に値する。

 箱根温泉や江ノ島、御殿場に向かう特急ロマンスカーを主体とする観光輸送を担う一面の他、通勤・通学輸送も担い、その混雑は首都圏でも有数である。そのため、1960年代から編成の長大化や新宿駅の改良などの輸送量増強施策が進められており、数ある施策の中でも代々木上原~登戸間11.7kmの複々線化が完成した2018年は小田急にとって節目の年となった。

路線の特徴

 まずはじめに、競合関係について整理しておこう。

 新宿~小田原と、新宿~藤沢(江ノ島線)の2区間でJR湘南新宿ラインと競合している。所要時間はJRの方が短いものの、運賃では小田急の方が有利となっている。次に、新宿~小田急永山・小田急多摩センター(多摩線)では京王相模原線と競合している。こちらは、京王の方が本数・所要時間・料金とどの面でも有利な状況になっているが、小田急は始発電車の設定や複々線を利用した安定輸送で対抗している。さらに、2019年より相鉄とJRが直通を開始したため、新宿~海老名や新宿~大和(江ノ島線)でも競合するようになったが、小田急が本数・所要時間・料金とどの面でも有利な状況になっている。そのほか、螢田~小田原で伊豆箱根鉄道駿豆線と並走する区間がある。

 ここまで競合関係をあげて整理したものの、すべて両端駅のみ共通であり、ルートはかぶっていない。大山街道沿いに新宿~小田原を直線的に結ぶルートを取っており、沿線の世田谷区や町田市・海老名市・厚木市・秦野市などは都心方向へ出る鉄道が小田急しか存在しない。そのため、これらの地域では小田急を中心とする生活地帯が形成されており、結果的に小田急の混雑区間が他社に比べて異常に長い原因となっている。

 

 起点の新宿から、終点の小田原まで82.5kmに47駅が設置されている。小田急電鉄のホームページに全47駅の乗降客数が掲載されているので、棒グラフにしてみよう。(図1)

 (※代々木上原駅については、東京メトロ千代田線への直通客がいるため、データの信頼度には注意が必要である。)

図1 小田急小田原線 各駅の乗降客数

 

 新宿が50万人以上の乗降客数を誇る大ターミナル駅であることがわかるが、その他にも25万人越えの代々木上原と町田を筆頭に、10万人以上の乗降客数を有するターミナル駅が下北沢、登戸、新百合ヶ丘、相模大野、海老名、本厚木と計6駅も存在する。500km以上の路線長を持つ近鉄でも、10万人以上の乗降客数を持つ駅が4駅しかないといえば、いかに利用者の多い路線であるかが伝わるであろうか。(新宿から45kmも離れた私鉄1路線の単独駅の利用者数が15万人を越えてるというのは、はっきり言って異常である。。。)

 下北沢駅で京王井の頭線、登戸駅でJR南武線、町田駅でJR横浜線に乗り換えることができるため、ダイヤ上重要な拠点駅となっている。

 次はもう少し粒度を大きくしたグラフで分析してみよう。

図2 小田急小田原線 各駅の乗降客数(改)

 

 新宿~本厚木では、急行は利用者が特に多い主要駅にのみ停車し、利用者が5万人強もいる千歳船橋や鶴川、小田急相模原などを容赦なく切り捨てていることが読み取れる。これは、都心への通勤・通学圏が極端に長い小田急小田原線ならではの現象であろう。(こうなると向ヶ丘遊園にも急行が停車していることにいささかの疑問の余地があろう。)

 本厚木~新松田は駅間が長く、各駅の利用者数にもバラツキがみられないため、急行も各駅に停車していく。新松田~小田原間の小駅は、駅間が都心並に狭く、また利用者が特に少ないため、長年普通しか止まらない地帯であったが、2019年より開成駅にも急行が停車するようになった。

 

 小田原線は5路線と直通運転を行っている。自社の江ノ島線が相模大野駅から、同じく多摩線が新百合ヶ丘駅から、それぞれ分岐し、急行・快速急行等が直通している。また、特急ロマンスカーのみ、小田原駅から箱根登山鉄道の箱根湯本駅まで、新松田駅からJR御殿場線の御殿場駅まで、直通する列車が存在。さらに、都心側では代々木上原駅より東京メトロ千代田線に乗り入れる列車が多数存在する。

 

ダイヤグラム分析

①日中時のダイヤグラム

図3 日中時のダイヤグラム(下り)

 

図4 日中時のダイヤグラム(上り)

 

 日中時のダイヤグラムは、特急の停車・行き先のパターンを無視すれば20分サイクルで構成されているといえる。1サイクルの間に、特急が1本、新宿~小田原と江ノ島線直通の新宿~藤沢(休日は片瀬江ノ島発着)の快速急行が各1本ずつ、新宿~新松田と多摩線直通の新宿~唐木田の急行が各1本ずつ、千代田線直通の我孫子~向ヶ丘遊園の準急が1本、新宿~本厚木の各停が2本、新松田~小田原の各停が1本の計9本が含まれる。さらに、特急は停車パターンが3パターン存在するので、厳密には60分サイクルで構成されている。

 

 特急は、1時間あたりに新宿~箱根湯本間のはこね号が2本と、新宿~片瀬江ノ島間のえのしま号または新宿~御殿場間のふじさん号、あるいは新宿~小田原間のさがみ号のどちらかが1本の合わせて3本が20分間隔で走っている。新宿00分発/07分着のはこね号は、新宿町田本厚木小田原と停車し、新宿20分発/47分着のはこね号は、新宿町田海老名小田原と停車する。また、新宿40分発/27分着のロマンスカーは、新宿新百合ヶ丘相模大野本厚木秦野小田原と停車する。

 快速急行は新宿~小田原間の運転と新宿~藤沢・片瀬江ノ島(江ノ島線)間の運転が交互に約10分間隔で設定されている。

 小田原発着の快速急行は新松田~小田原間で急行に種別を変更し、新宿代々木上原下北沢登戸新百合ヶ丘町田相模大野海老名本厚木から開成までの各駅小田原に停車する。下りは登戸と新百合ヶ丘、海老名で各停本厚木行に接続し、新百合ヶ丘で急行唐木田行にも接続する。上りは、町田と登戸で各停新宿行に接続し、新百合ヶ丘で急行新宿行にも接続する他、海老名か相模大野で特急の通過待ちを行う。

 江ノ島線直通の快速急行は、新宿代々木上原下北沢登戸新百合ヶ丘町田相模大野中央林間大和湘南台藤沢片瀬江ノ島に停車する。登戸と新百合ヶ丘(下り)と町田(上り)と大和で各停に接続し、下りは相模大野で、上りは新百合ヶ丘で急行にも接続する。

 

 急行は新宿~新松田間の運転と新宿~唐木田(多摩線)間の運転が交互に約10分間隔で設定されている。

 新松田発着の急行新宿代々木上原下北沢経堂成城学園前登戸向ヶ丘遊園新百合ヶ丘町田相模大野海老名本厚木から新松田までの各駅に停車する。成城学園前と新百合ヶ丘(下り)、町田(上り)、海老名(下り)、新松田で各停に接続する他、下りは相模大野で、上りは新百合ヶ丘で快速急行を待避する。

 多摩線直通の急行は、新宿代々木上原下北沢経堂成城学園前登戸向ヶ丘遊園新百合ヶ丘栗平小田急永山から唐木田までの各駅に停車する。成城学園前で各停に接続し、向ヶ丘遊園で準急に接続する。

 

 準急は我孫子(JR常磐線)~向ヶ丘遊園間の運転で、20分間隔で設定されている。代々木上原下北沢経堂千歳船橋祖師ヶ谷大蔵成城学園前狛江登戸向ヶ丘遊園に停車し、向ヶ丘遊園で急行に接続する。

 

 新宿~本厚木間の各停は、約10分間隔で設定されており、登戸、新百合ヶ丘(下り)、町田(上り)、相模大野(下り)、海老名(下り)で待避を行う。新松田~小田原間の各停は、約20分間隔で設定されており、新松田で急行に接続して終点まで先着する。

 

 栢山~足柄間を除いて全駅で10分間隔の停車が保証されている。都心(下北沢以北)への1時間あたりの有効本数を検証すると、

各停のみの停車駅では6本。

・狛江以北の準急停車駅では、準急が終点まで先着するため、9本。

・経堂と成城学園前では、準急と共に急行も終点まで先着するため、15本。

・登戸では、快速急行または急行が終点まで先着するため、12本。

・向ヶ丘遊園では、登戸で快速急行または急行に乗り換えるのが先着になるため、12本。

・新百合ヶ丘以南の快速急行停車駅では、快速急行が先着するため、6本。

となる。急行が通過する世田谷区内の駅の有効本数が多く設定されていることがわかる。

 

②平日朝ラッシュ時の上りダイヤグラム

図5 平日朝ラッシュ時のダイヤグラム(上り)

 

 平日朝ラッシュ時のダイヤグラムは綺麗なパターンダイヤで、約10分サイクルで構成されている。1サイクルの中に、小田原~新宿と江ノ島線からの藤沢~新宿の快速急行が各1本ずつ、新松田~相模大野の急行が1本、多摩線からの唐木田・小田急多摩センター~新宿の通勤急行が1本、千代田線直通の本厚木・海老名~大手町方面の通勤準急が1本、伊勢原・本厚木~新宿と、向ヶ丘遊園~新宿の各停が各1本ずつ、新松田~小田原の各停が1本の計8本が含まれる。特に、2019年に複々線化された代々木上原~向ヶ丘遊園では1時間あたり36本もの電車が運転されていることになり、複々線の恩恵を受けている。

 

 快速急行は小田原発と藤沢発が交互に5分間隔で設定されている。藤沢発の便は相模大野で新松田発の急行からの接続を、新百合ヶ丘で多摩線からの通勤急行からの接続をそれぞれ受け、登戸で各停に接続する。小田原発の便は登戸で通勤準急に接続する。

 急行は新松田~相模大野間の運転で、快速急行と交互に約5分間隔で設定されている。終点の相模大野で江ノ島線からの快速急行に接続する。

 通勤急行は唐木田・小田急多摩センター~新宿間の運転で、平日朝に9本のみ設定されている。急行の停車駅のうち、快速急行も停車する登戸のみ通過することで、登戸と向ヶ丘遊園の2駅の千鳥停車を実現している。新百合ヶ丘で快速急行を待避し、新宿まで先着する。

 通勤準急は本厚木(一部、海老名発)~大手町方面の運転で、本厚木発の各停と交互に約5分間隔で設定されている。登戸までの各駅成城学園前経堂下北沢代々木上原に停車し、千代田線に直通する。相武台前と鶴川で快速急行に追い抜かれ、登戸で快速急行に接続、さらに成城学園前と経堂で各停に接続にする。

 各停は本厚木発(一部、伊勢原発)と向ヶ丘遊園発が交互に約5分間隔で設定されている。相武台前と鶴川、登戸、成城学園前、経堂で待避を行う。

 

 下北沢着の7:40~8:40の1時間で有効本数を検証してみよう。新松田以北の各駅では全駅でほぼ5分間隔の本数が確保されているので、

・全駅で12本。

通勤準急が停車する経堂では18本。

通勤急行が停車する向ヶ丘遊園と新百合ヶ丘では18本。

快速急行の他に通勤準急も先着する登戸では18本。

となっており、全体にわたって多くの本数が確保されている。唯一、成城学園前のみは日中時間よりも有効本数が少なくなっており、対策が必要といえるかもしれない。

 

 通勤特急停車駅以外では、唯一武庫之荘のみが有効本数多く設定されているのは、やはり乗降客数が多いからである事が分かる。また、夙川で接続する甲陽線が1時間あたり7本、西宮北口で接続する今津北線が1時間あたり12本設定されているのは、神戸本線の有効本数に合わせていることが分かる。

 

③平日夕ラッシュ時の下りダイヤグラム

図6 平日夕ラッシュ時のダイヤグラム(下り)

 

 平日夕ラッシュ時のダイヤグラムは、特急の停車・行き先のパターンを無視すれば30分サイクルで構成されているといえる。1サイクルの中に、特急が2本、小田原行と江ノ島線直通の藤沢行、更に多摩線直通の唐木田行の快速急行が各1本ずつ、小田原行と新松田行(ただし、相模大野で各停に種別変更)に加え、江ノ島線直通の藤沢行、千代田線から直通してくる伊勢原行の急行が各1本ずつ、千代田線から直通してくる成城学園前行と本厚木行の準急が各1本ずつ、本厚木行の各停が2本、相模大野行と向ヶ丘遊園行、さらに千代田線から直通してくる成城学園前行の各停が各1本ずつ、新松田~小田原の各停が1本の合計17本が含まれる。特に、2019年に複々線化された代々木上原~向ヶ丘遊園では1時間あたり33本もの電車が運転されていることになり、朝同様に複々線の恩恵を受けている。

 

 特急は、1時間あたりに小田原線のホームウェイ号が2本と、江ノ島線のホームウェイ号が1本、千代田線からのメトロホームウェイ号が1本の4本が、約15分間隔で運転されている。

 快速急行は唐木田行→藤沢行→小田原行の順に設定されており、このうち小田原行は新松田で急行に種別を変更する。基本的に、登戸と新百合ヶ丘で各停準急も含む。)に接続する。これに加えて、藤沢行は大和と藤沢でも各停に接続し、小田原行は相模大野で江ノ島線各停にもそれぞれ接続するほか、小田原行は海老名または秦野で特急の待避を行う。

 急行は千代田線からの伊勢原行→小田原行→藤沢行→新松田行の順に設定されており、このうち新松田行は相模大野で各停に種別を変更する。伊勢原行は登戸と新百合ヶ丘と伊勢原で各停に接続し、向ヶ丘遊園で快速急行藤沢行を待避する。小田原行は登戸と新百合ヶ丘と新松田で各停に接続し、向ヶ丘遊園と秦野で特急の通過待ちを行う。藤沢行は成城学園前で準急に、新百合ヶ丘と大和で各停に、相模大野で小田原線各停に、それぞれ接続する。新松田行は登戸と新百合ヶ丘で各停に接続するほか、向ヶ丘遊園で特急快速急行唐木田行を待避したのち、伊勢原で急行伊勢原行の接続を待ち、新松田で各停小田原行に接続する。

 準急は成城学園前行と本厚木行が交互に15分間隔で設定されている。本厚木行は成城学園前で急行藤沢行に接続し、登戸で快速急行小田原行を、新百合ヶ丘で特急快速急行唐木田行と急行新松田行を、相武台前で急行伊勢原行を、それぞれ待避する。

 各停は代々木上原基準で、向ヶ丘遊園行→本厚木行→(千代田線からの)成城学園前行→本厚木行→相模大野行の順に設定されており、登戸、新百合ヶ丘、相武台前で待避を行う。また、新松田~小田原の各停は15分間隔で運転されており、新松田で急行からの接続を受ける。

 

 代々木上原~伊勢原の間は、すべての駅で毎時8本の各駅停車が用意されている。特に、世田谷区内の代々木上原~成城学園前では10本もの各駅停車が走り、複々線化工事の恩恵がもたらされている。しかし、登戸~向ヶ丘遊園の間は下り1線しかなく、また鶴川駅の下り線に待避線が無いなど、上りに比べて下りの待避設備が少ないため、列車が詰まって所要時間が延び、またパターンダイヤが綺麗にととのっていない。

 

所感

 小田急は路線長が長く、さらに支線である江ノ島線や多摩線からの需要も多いため、続行運転を基調とするパターンダイヤを組んでいることが特徴である。しかしこれは複々線区間があるからできる技であり、複線区間の登戸~新百合ヶ丘ではやはり線路容量が足りないのか、主に下りで急行が向ヶ丘遊園で待避するようなケースが出てきてしまっているのは残念である。

 また、日中時のダイヤグラムの問題をあげるとするなら、下りと上りとで待避パターンがずれており、使い勝手が悪いことがあげられるだろう。特に上りは、町田~登戸で各停が先行するダイヤとなっており、急行の使い勝手が悪くなっているのが残念である。これでは快速急行に混雑が集中してしまうため、新百合ヶ丘での急急接続を解消する必要があるのではないかと思う。

 朝ラッシュ時のパターンダイヤは綺麗に整っているため、夕ラッシュ時のダイヤも綺麗なパターンで整理したくなる。多摩線直通の列車が30分間隔の快速急行のみと少ないことがパターンを構築しにくくなっているため、快速急行ないしは急行を15分間隔で走らせ、15分サイクルダイヤを組むべきではないかと思う。

 

参考資料

・冒頭の画像:小田急電鉄のホームページより引用しました。→https://www.odakyu.jp/romancecar/features/line_up/50000/

・乗降客数のグラフ:データは小田急電鉄のホームページより引用しました。→https://www.odakyu.jp/company/railroad/users/