路線概要

(画像はWikipediaより引用。)

 関西の大手私鉄・阪急電車には、大阪梅田駅を起点とする3つの幹線があり、そのうち神戸方面に向かう路線が神戸本線。

 阪神間を結ぶ3路線(JR神戸線・阪神本線・阪急神戸本線)のうち、最も開業したのが遅いこの路線は、直線主体のルートで途中駅も少なく設置されたため、私鉄の通勤路線としては表定速度が高いことが特徴。また、沿線は阪急が開発した高級住宅街が広がることでも知られる。国鉄が民営化して以降、JRの新快速と激しく競合しており、1995年から続々と特急の停車駅が増えている。ここから、開業目的である都市間輸送一辺倒のダイヤから、沿線の各駅からの集客に舵を切りつつあることが分かる。

 

路線の特徴

 起点の大阪梅田から、終点の神戸三宮まで32.3kmに16駅が設置されている。阪急電車のホームページに全16駅の乗降客数が掲載されているので、棒グラフにしてみよう。(図1)

 

図1 阪急神戸本線 各駅の乗降客数

 

 大阪梅田が(宝塚本線と京都本線も乗り入れるためでもあるが、)50万人越えの客数を誇る桁外れのターミナルであるため、路線特性が読み取れない。そこで、他駅を拡大してみよう。(図2)

 

図2 阪急神戸本線 各駅の乗降客数(改)

 

 都市間を結ぶ路線ということもあり、両端の大阪梅田神戸三宮が突出している他、十三西宮北口も多くの乗降がみられる。神戸本線では戦前の1930年から特急が運転されているが、1937年からJRの新快速に客足を奪われるようになる1995年のダイヤ改正までの65年間もの長期間にわたって一貫して、大阪梅田・十三・西宮北口・神戸三宮の4駅のみに停車していたこともここからうかがえよう。

 そのほか、利用が目立つのが武庫之荘であるが、武庫之荘には通勤急行のみの停車で、優等種別は停車しない。逆に、95年以降、JRに対抗するために特急が停車するようになった夙川岡本は乗降客数が少ない。

 

 神戸本線は2路線と直通運転を行っており、ほとんどの特急と一部の他列車が神戸三宮より新開地まで神戸高速線に直通する他、平日朝に今津線の宝塚駅から直通してくる準急大阪梅田行が6本のみ存在する。そのほか、十三駅で宝塚本線と京都本線、塚口駅で伊丹線、夙川駅で甲陽線とそれぞれ接続している。

 

ダイヤグラム分析

①日中時のダイヤグラム

図3 日中時のダイヤグラム(下り)

 

図4 日中時のダイヤグラム(上り)

 

 日中時のダイヤグラムは綺麗な10分サイクルで構成されている。全線で特急普通が各1本ずつで10分サイクルを組む。これに合わせる形で、神戸本線の各支線(伊丹線・今津線・甲陽線・神戸高速線)でも10分サイクルのダイヤが組まれており、スムーズな接続を実現している。

 

 特急は大阪梅田~新開地(神戸高速線)間の運転で、10分間隔で設定されている。大阪梅田十三西宮北口夙川岡本・神戸三宮に停車し、西宮北口で普通に接続する。

 普通は大阪梅田~神戸三宮間の運転で、同様に10分間隔で設定されている。西宮北口で特急の通過待ちを行う。

 

 全駅で10分間隔の停車が保証されており、大阪梅田への有効本数は十三と西宮北口を除いて6本となっている。

 

②平日朝ラッシュ時の上りダイヤグラム

図5 平日朝ラッシュ時のダイヤグラム(上り)

 

 平日朝ラッシュ時のダイヤグラムは約16分サイクルで構成されている。1サイクルの中に、全線で運転される特急通勤特急通勤急行・普通が各1本ずつと、今津線から直通されてくる準急が1本、西宮北口発着の普通が1本の計6本が含まれる。

 

 特急は新開地(神戸高速線)~大阪梅田間の運転(一部、神戸三宮・高速神戸発)で、通勤特急と交互に約8分間隔で設定されている。神戸三宮・岡本・夙川・西宮北口・十三・大阪梅田に停車し、六甲で通勤急行を追い抜き、西宮北口で普通に接続する。

 通勤特急は神戸三宮~大阪梅田間の運転(一部、新開地発)で、特急と交互に約8分間隔で設定されている。神戸三宮・岡本・夙川・西宮北口・十三・大阪梅田に停車し、六甲で普通を追い抜き、西宮北口で通勤急行に接続する。

 準急は今津線宝塚~大阪梅田間の運転で、6本のみ設定されている。今津線の各駅塚口十三大阪梅田に停車し、西宮北口での運転停車中に特急の通過待ちをして発車した後、大阪梅田まで先行する。

 通勤急行は神戸三宮~大阪梅田間の運転(一部、高速神戸発)で、神戸三宮発着の普通と交互に約8分間隔で設定されている。神戸三宮から塚口までの各駅十三大阪梅田に停車し、六甲で特急に追い抜かれ、西宮北口で通勤特急の接続待ちを行う。

 普通は神戸三宮発(一部、高速神戸発)と西宮北口発が交互に約8分間隔で設定されている。六甲で通勤特急に追い抜かれ、西宮北口で特急の接続待ちを行い、園田で特急または通勤特急に追い抜かれる。

 

 大阪梅田着の7:40~8:40の1時間で有効本数を検証してみよう。夙川以西は特急通勤特急が先着するため、1時間あたり7本。西宮北口では特急通勤特急に加えて通勤急行も大阪梅田まで先着するため、11本。武庫之荘では通勤急行と神戸三宮発の普通が先着するため、9本。(武庫之荘始発の普通1本を含む。)塚口では通勤特急準急通勤急行・神戸三宮発の普通が先着するため、16本。園田と神崎川では普通が先着するため、8本。これらを乗降客数と照らし合わせてみてみよう。

 

図6 乗降客数と朝ラッシュ時の有効本数の関係

 

 通勤特急停車駅以外では、唯一武庫之荘のみが有効本数多く設定されているのは、やはり乗降客数が多いからである事が分かる。また、夙川で接続する甲陽線が1時間あたり7本、西宮北口で接続する今津北線が1時間あたり12本設定されているのは、神戸本線の有効本数に合わせていることが分かる。

 

③平日夕ラッシュ時の下りダイヤグラム

図7 平日夕ラッシュ時のダイヤグラム(下り)

 

 平日夕ラッシュ時のダイヤグラムは、日中同様に綺麗な10分サイクルで構成されている。全線で運転される特急通勤急行が各1本ずつと、西宮北口行の普通が1本を加えた計3本で10分サイクルを組む。

 

 特急は大阪梅田~新開地(神戸高速線)間の運転で、10分間隔で設定されている。大阪梅田十三西宮北口夙川岡本・神戸三宮に停車し、西宮北口で通勤急行に接続する。

 通勤急行は大阪梅田~神戸三宮間の運転で、同様に10分間隔で設定されている。大阪梅田十三塚口から神戸三宮までの各駅に停車し、西宮北口で特急の通過待ちを行う。

 普通は大阪梅田~西宮北口間の運転で、同様に10分間隔で設定されている。西宮北口まで先着する。

 

 1時間あたりの大阪梅田発基準での全駅で10分間隔の停車が保証されており、大阪梅田からの有効本数は基本的に6本。これに加え、通勤急行が停車する塚口と武庫之荘では12本、更に特急が停車する西宮北口では18本となる。これらを乗降客数と照らし合わせてみてみよう。

 

図6 乗降客数と夕ラッシュ時の有効本数の関係

 

 朝ラッシュ時と比較して、乗降客数と有効本数が綺麗に対応している。塚口が本数の割に乗降客数が少ないが、伊丹線への乗り換え客が居る事情を鑑みれば妥当な本数であると言えよう。

 

所感

 関西では関東に比べてパターンダイヤが整然としている路線が多いのだが、その中でも阪急神戸本線のダイヤは随一のシンプルさを誇る。早朝深夜と今津線から準急が直通してくる平日朝ラッシュ時間帯の上りを除いては、終日にわたって西宮北口で緩急接続をするダイヤを基本としている。利用の多い時間では「①西宮北口発着の普通を追加する」・「②パターンの間隔をつめる」の2種類の対応に絞ることで、イレギュラーな行き先の列車の発生や、速達種別に乗り継ぐことのできない通過追い抜きの回数を極力抑えている。

 これは、駅数が少ないことや、大阪梅田・十三・西宮北口・神戸三宮以外の各駅の利用が同程度であるので、必然的に速達種別の停車パターンが絞れること、車庫が西宮北口という路線中間の拠点駅に存在する好立地である事などが理由にあげられるだろう。

 

 美しいとまで言えるこのパターンダイヤであるが、付近を並走する競合相手のJR神戸線のダイヤと比べれば弱い点も出てくるだろう。

 JR神戸線は15分サイクルのダイヤを組んでおり、1サイクルに新快速が1本、快速が1本、普通が2本含まれ、このうち新快速快速は大阪~三ノ宮間でそれぞれ先着する。1時間あたりの本数を比べてみると、阪急の特急が6本に対して、JRの新快速快速は8本。阪急の普通が6本に対して、JRの普通はやはり8本と、本数が少ないことが否めない。これは、阪急が全線で10分サイクルのダイヤ、JR西日本がアーバンネットワークが大半の地域で15分サイクルのダイヤを組んでいることに起因している。もちろん、阪急とJRの駅が密接している駅は少ないのだが、両端の大阪梅田と神戸三宮では隣接している以上は、本数も対抗する必要があるかもしれない。

 

参考資料

・冒頭の画像:Wikipediaより引用しました。→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%AA%E6%80%A51000%E7%B3%BB%E9%9B%BB%E8%BB%8A_(2%E4%BB%A3)

・乗降客数のグラフ:データは阪急のHPより引用しました。→https://www.hankyu.co.jp/station/passenger.html