西浦特急 鉄道と旅のブログ

鉄道・飛行機などで国内外を旅行した様子のほか、鉄道を中心に交通全般の話題を取り上げます。

【リニア接続も視野に?】近鉄の新型特急「ひのとり」プレミアムシート乗車記(大阪難波11:00→名古屋13:05)

 

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近鉄大阪難波駅の特急券売場。

今回はここ大阪難波から2020年3月にデビューした新型特急列車「ひのとり」に乗車して名古屋へ向かいます。

 

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特急券売場に掲出された特急列車時刻表は近鉄伝統の縦書き。

日中の名古屋行は毎時0分発の鶴橋~名古屋間で津のみに停車する速達便と毎時30分発の主要駅停車便で構成されています。

毎時0分発の速達便は名阪ノンストップ特急として運転されてきた経緯があり、車両もその用途に特化した「アーバンライナー」車両が主に使われてきましたが、

今回デビューした「ひのとり」はその一部を置き換えるダイヤで運行されています。

 

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販売窓口上部の運賃表は特急車両の写真を多用した全国的にも珍しい?見ていて楽しくなる運賃表です。

ここで特急券を購入するのはレストランでメニュー写真を見てウエイターに注文する感覚にも似ており、特急列車が近鉄の「看板商品」であることを改めて実感するものです。

肝心の料金ついては、従来の「アーバンライナー」のレギュラーシート(普通車)が指定席特急券のみ、デラックスシート(グリーン車相当)が追加510円であるのに対し、「ひのとり」はレギュラーシートが追加200円、プレミアムシートが追加900円となっています。

大阪難波から名古屋までプレミアムシートを利用した場合の運賃・料金の合計は5240円となり、新大阪~名古屋間の新幹線普通車より安いもののその差は大きくはありません。

 

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今回は新幹線の「速さ」とは別の満足に期待し11:00発の「ひのとり11列車」のプレミアムシートに乗車します。

「11時発の11列車」は偶然ではなく大阪難波発の便については発車時刻と列車の号数を意図的に一致させているようです。

特急券はインターネットサイトから購入、乗車券はピタパのタッチで支払いました。

 

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発車時刻の10分程前に改札を抜け、ホームで発車を待つ「ひのとり」と対面。

近鉄の特急車両と言えば、まず昭和から続く紺色とオレンジの塗装を連想しますが、

「ひのとり」のメタリックレッドともいうべき「ゴージャスな赤色」は、

「アーバンライナー」「しまかぜ」「伊勢志摩ライナー」など平成の看板特急にも全く使われることがなかった色であり、

ホームに停車しているだけで強い存在感を放っていました。

 

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6両編成の両端がハイデッカー構造のプレミアムシート車両となっており、その車端には黄金の「ひのとり」(不死鳥)が描かれていました。

 

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指定の名古屋寄り先頭車1号車の車内へ。

 

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エントランス部にはコーヒーマシーンとスナックの自販機が設置されており、その対面にはカード対応の荷物ロッカーがあります。

いずれもJR も含め従来の特急列車では見られなかったサービスです。

またこの部分の天井は階段の先のハイデッガー構造の客室部分と同じ高さで、鉄道の車内としては非常に開放感がある空間になっていました。

 

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エントランス部の階段を上がりプレミアムシートが並ぶ客室へ。

赤い絨毯の上に大きなシートがゆったりと並ぶ車内の雰囲気は従来の「グリーン車」の域を脱しており、

JALの国内線ファーストクラスや短距離国際線のビジネスクラスをイメージさせるものでした。

 

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運転席後ろの窓も大きく最前列の席に座ると前面展望をほしいままに出来ます。

ちなみに最前列の席番は7A ~7C となっています。

 

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今回は最前列の2人掛け窓側に空席がありましたが、車内見学などで席を立つことを考えて、前から3列目の1人席を指定しました。

シートだけを見ても、グリーン車というよりはビジネスクラスを連想させます。

背もたれの枕部分にも「ひのとり」があしらわれています。

 

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シートピッチは130センチあり国内の鉄道では最大級です。

新幹線のグリーン車より14センチ広いだけでなく、

シート背面にリクライニングを受け止めるボードが設置されているので、リクライニングを倒しても後ろの席のスペースを新たに侵食することがありません。

 

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リクライニングは肘おき部分のパネルで操作する電動式。

 

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肘おきに内蔵のテーブル。

 

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座席横の大きな窓の日除けも電動で上下させることができます。

 

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11:00定刻に大阪難波を発車した列車は上本町駅地下ホームに停車したのち、地上に上がり大阪環状線との乗り換え駅鶴橋駅に進入。

 

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鶴橋駅を発車すると次は三重県の県庁所在地津まで1時間以上停車駅はありません。

鶴橋発車時点でプレミアムシートは8割程度の席が埋まっていました。

 

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大阪府内の車庫では「ひのとり」とこれまでの名阪特急の主役アーバンライナー(真ん中の白の車両)の姿が見えました。

 

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大阪府内の市街地から奈良県の田園風景へと車窓は変化していき、列車の速度も一段と早くなります。

 

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速度計アプリで確認しようとしましたが、頭上の荷物棚に運転台の計器が写り込んでいるのを発見。

目を凝らすと速度計の針は110~120の間を指していました。

京阪神ではJRの新快速などでも体験することができる速度ですが、車内の静粛性は雲泥の差で良い意味でスピード感が感じられません。

 

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大阪難波発車から1時間弱、列車は奈良・三重県境付近の山間部を走っています。

車内も落ち着いてきたのでここで他の車両の様子を軽く見学することにしました。

 

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コーヒーマシーンやスナックの自販機があるプレミアムシート車両のエントランス部分にはトイレも設置されています。

 

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トイレ前の通路から隣のレギュラーシート車両に移ると、長椅子を配したフリースペースがあります。

グループで乗車した場合など静かなプレミアムシート車両での談笑が憚られるときは、ここでコーヒーマシーンのコーヒーを飲みながら寛ぐのも悪くなさそうです。

なお長椅子の対面にはプレミアムシート車両と同じ荷物ロッカーが用意されています。

 

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レギュラーシート車両の車内。8割程度の席が埋まっていたプレミアムシート車両に比べ着席率は2割程度とすいていました。 

レギュラーシートの座席背面にもリクライニング受けのボードが設置されているほか、ピッチについても新幹線のグリーン車と同じ116センチが確保されています。

先述のようにアーバンライナーのレギュラーシートに比べ追加料金200円が必要ですが、充分にその価値はありそうです。

 

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レギュラーシートの座席。次に乗車するときは乗り比べの意味でこちらを指定しようと思います。 

 

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フリースペースがあった側とは反対のデッキには一般的な飲料の自販機が設置せれていました。

 

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プレミアムシート車両にもどりコーヒーマシーンのコーヒーを購入。

紙コップも「ひのとり」デザインになっており、飲み終えた直後に洗面所で洗えば乗車記念品にもなりそうです。

 

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肘おき内臓のものとは別に窓際にも小さなテーブルがあります。

 

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洗面所に置かれていた「おしぼり」

今風にいう「アテンダント」の女性が乗客に「おしぼり」を配るのが近鉄特急の定番サービスになっていた時代があり、筆者も記憶があります。

 

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乗車時には気づきませんでしたが、足元には車内設備案内のパンフレットが差し込まれていました。

 

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列車は三重県伊賀市と津市に跨る布引山地を貫く新青山トンネル(5652m)を走行中。同トンネルは日本の大手私鉄では西武鉄道の正丸トンネル(4811m)を越える日本一の長さとなっています。

 

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トンネル区間を終え平野部に出ると伊勢中川駅手前で大きく減速。ここまで走行してきた大阪線から分岐して名古屋線への短絡線に進みます。

 

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短絡線からの車窓。右手から名古屋線の軌道が近づいてきます。

写真右奥には大阪線と名古屋線が合流する伊勢中川駅があります。

現在では標準軌(1435mm)で統一され「ひのとり」や「アーバンライナー」など名阪直通の特急が走る大阪線・名古屋線ですが、

かつては名古屋線の軌道が狭軌(1067mm)となっていたため直通運転ができず、近鉄で大阪と名古屋を行き来する場合は伊勢中川での乗り換えが必須になっていました。

終戦後、悲願となっていた名古屋線の標準軌化工事が開始されましたが、それから間もなく昭和34年9月に伊勢湾台風が襲来。

名古屋線が大規模な被害を受けましたが、その際、路線の復旧は工事計画を前倒しして標準軌で行うことが決定されました。

工事は急ピッチで進められ、同年12月12日には完了、このとき「ひのとり」につながる大阪~名古屋の直通特急の運転が始まっています。

当初の名阪直通特急は伊勢中川駅でスイッチバックをしていましたが、昭和36年には走行中の短絡線が完成し、よりスムーズな運転ができるようになっています。

 

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写真:名古屋線への合流

 

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名古屋線をしばらく走り、鶴橋以来の停車駅「津」に接近。近鉄の線路に寄り添う単線非電化の軌道はJR紀勢線のものです。

その貧弱な様子は、地域輸送を近鉄に奪われ成長の機会を得られなかったようにも見えますが、

一方で近鉄がなかったら国鉄~JRがそれなりの投資をして路線の近代化をせざるを得なかったはずであり、近鉄がかわりに「やってくれた」という見方もできそうです。

 

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13:22.鶴橋から1時間以上のノンストップ走行で津に到着。

運転開始から2ヶ月以上が経過してもホームで後続列車を待つ乗客からの熱い視線を感じました。

 

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運転席では運転士の交代が行われています。かつて鶴橋から名古屋までノンストップ運転だった時代には、先ほど通過した短絡線走行中に運転士の交代が行われていました。

 

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津を発車してしばらくで三重県最大の都市「四日市」付近を走行。

近鉄四日市駅周辺はその中心で沿線には都会的な風景が広がりますが、「ひのとり」は大きく減速することもなく四日市駅を通過し終点名古屋へ急ぎます。

 

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こちらはさらに進んで桑名駅。JRと近鉄を連絡する橋上駅舎の工事が行われているようです。

 

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名古屋線の見せ場は木曽三川と呼ばれる、揖斐川・長良川・木曽川にかかる2つの長い鉄橋です。延長は揖斐・長良川鉄橋は991.7m、木曽川橋梁は860.7mとなっています。

 

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国鉄(JR)の東海道本線が名古屋から関ケ原を経由して京都・大阪へ至るルートとなった理由として、この三川への架橋技術が十分でなはなく、仮に「がんばって」架橋しても戦艦から攻撃されれば主要交通路を遮断されることになることが懸念されたためとも言われています。

東海道線が建設された明治初期の日本はまだ「黒船ショック」が尾をひいていたのかも知れません。

 

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名古屋が近づくと平行するJRの軌道も近代的な姿に整備されています。

名古屋13:00発の特急南紀号とすれ違うと「間もなく終点名古屋に到着」と車内放送が流れました。

 

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名古屋駅前のセントラルタワーなどの高層ビルが近づくと名古屋駅へとつづく地下に進入。

 

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トンネルに入ると車内はブルーの間接照明に包まれました。

照明の色を自在に変える演出も航空機にヒントを得たものでしょうか。

 

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13:05名古屋駅に到着。難波から2時間5分、鶴橋から1時間59分は鶴橋~名古屋間ノンストップ運転時代とかわらない所要時間です。

本記事のような乗車記は多少の批判的な視点も含まれていたほうが中身が濃くなると考えていますが、今回乗車した「ひのとり」は「非のうちどころ」がほとんど見つからない素晴らしい車両でした。

強いて言えば、プレミアムシートの追加料金900円を1000円にするかわりにコーヒーマシーンのコーヒーを無料で飲めるようにするほうが、乗客の満足度が向上するのではないかと感じたことくらいでしょうか。

 

★★昭和34年の伊勢湾台風の被害を飛躍へのステップにかえ、東海道新幹線開通によって生じた国鉄(JR)との圧倒的なスピード格差も独自のサービスや魅力的な車両によって凌いできた近鉄名阪特急に押し寄せる次の大波は2027年に予定されているリニア新幹線の名古屋開通ということになるでしょう。

その影響は未知数ですが、東京・大阪を最速で移動しようとすれば名古屋での乗り換えが必須になるという点を考慮すれば、かならずしもマイナス要素ばかりではないようにも思えます。

リニア開通時に名阪特急の主役となっているであろう「ひのとり」は、リニアからの乗り換え客を迎えることを念頭に設計されたものと思われます。

「ひのとり」が「たゆたえども沈まない」近鉄名阪特急のフラッグシップとして末永く活躍してくれることを期待しています。★★

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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