新幹線やリニアの整備の話が続くが…。フル規格新幹線やリニアを推進する理由としては従来型の在来線や新幹線と違い高速化で需要の新規誘発効果があるからというものだった。速くなれば泊りがけでないと行けないところに日帰りで行ける(一日行動圏)、一日がかりで行けたところが半日で行って帰って来れるようになれる(半日行動圏)ということで今までなら利用しなかった区間も在来線がフル規格新幹線になったり、東海道新幹線の並行区間にリニアができると既存利用者でなく新規利用者を掘り起こすということができるという理屈。実際に整備新幹線の区間は在来線よりも利用が増えている区間がある。整備新幹線についていえば90年代まで在来線に直通する区間がメインで新規建設区間を少なくする案もあったが、全線フル化が功を奏した格好だった。中央新幹線も鉄軌道とリニアの両方の案を比較してリニアでの整備となったのも同様の効果を期待してだろう。
しかし、これは勘違いしてはいけない。人は目的があって移動し、交通機関を利用する。速いだけでは意味がない。乗ることが目的でなく目的を達成する手段として交通機関にお金を投じるのである。まず目的があって、次にようやくどの移動手段を選ぶかを考え、その中から一番便利で速い手段をえらぶ。鉄道業界人とか鉄道ファンはこの認識がない人が多い。
逆に言うと、目的がなければどんなに早くて便利でも移動しない。交通機関も利用されない。これも先月から何度も書いてきたが、その目的が消失すれば鉄道など交通手段もいらなくなる。今のように「一億総自粛」は異常で、いずれはまた変わるかもしれないとはいえ一度その手段を移動しなくてもネットに代替できると知った人々は、コロナウイルスが終息しても従来ほどには目的のためにお金を払って移動しなくなるのではないか。より速くより遠くへ移動したいという欲求は人類が太古の昔から持ち続けていたし、終息後は会議もイベント観光地も決して全部が全部なくならないが、それでもかつてほど実際に足を運びたいという欲求は失せているのではないだろうか。
一例をあげると、近年の場合北陸新幹線の金沢への開業でビジネスや観光での金沢の入り込み数が増えホテルの需要も増えホテルも増えた。これは何もないところに新幹線ができたからでなく老舗企業や老舗旅館や景勝地のあるということで潜在需要があり、そこに新幹線が着て東京から日帰り行動圏になりヒットしたという構図だ。また特筆すべきは、金沢や富山でエンタメイベントが増えたことで、東京在住のアーティストやファンが日帰りで行けるようになりこの辺りでのライブは増えたはず。一般アーよりマイナーな声優などは全国ツアーをしても地方都市を丹念にめぐることはあまりなかったが、それでも新幹線開業で新たに金沢や富山で公演する人が増えた。まさに交通手段の高速化が潜在的な目的を果たせるようになり、手段として評価され移動需要が掘り起こされるという好循環がこの5年間でもあった。それが今は出張しての会議や商談会やライブなどは全く予定が全国的になくなっているが、北陸でもない。
今後遠くない将来コロナ渦が終息しても恐らくかつてほどの頻度で開催されなくなるだろうし正に目的がなくなると移動手段が使われなくなりあっても少なければ利用は少ないということである。(北陸といえば、西金沢にZEPPのライブハウスができるという話はどうなったんだろう?これは新幹線開業によるライブ会場需要の増加が建設の予定、手段が目的を作るということになるだろうが、建設構想がとん挫しこの目的がなくなれば新幹線の需要もその分増えないだろうということで、目的が消えれば手段も利用されないということが現実に起ころうとしているんだろう。)
自分が今後の新幹線整備に悲観的なのはこれが理由。目的がなければ移動手段をいくらお金をかけて整備しても社会的に無意味なんだから。