幻の地下鉄駅が出てくる小説 | 書斎の汽車・電車

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 今回は、当ブログでは珍しいエンタメ系小説のご紹介。というのも、再三取り上げてきた地下鉄銀座線の「幻の駅」が登場する小説だからです。まあ、家から出られないのであれば、こういう小説を楽しむのも有りかなと思います。

 ご紹介する小説は、中山七里『帝都地下迷宮』(PHP研究所)です。

 

 本作の主人公の小日向巧は、都内の某区役所の生活支援課に勤務する地方公務員です。彼は鉄道ファンでもありまして、特に「廃駅鉄」と自称するほど、廃止された駅を偏愛しています。物語は、小日向が旧東京高速鉄道の新橋駅の一般公開イベントに参加するところから始まります。こうした、一般人が立ち入り可能な機会を利用しての「廃駅探訪」であれば、どこからも文句は言われないでしょうが、小日向はついに「一線」を越えてしまいます。彼は真夜中に旧東京地下鉄道の万世橋駅に侵入を試みてしまうのです。(具体的な侵入方法の描写もありますけど、皆さんは真似しないでください)

 万世橋駅に侵入した小日向は、ここで暮らす人々に捕えられてしまいます。彼らは「エクスプローラー」と称する100名前後の集団で、ある事情から(詳しく書くとネタバレになりますので)旧万世橋駅で極秘裏に生活していたのでした。中にはちょっとした店舗のようなものすらあり、一つの町のようになっていました。旧万世橋駅とその周辺の地下空間に、100名からの人間がある程度の余裕をもって暮らせるだけの面積が果してあるのか少々疑問ではありますが、そこは小説家の想像力で上手く処理されています。主人公の小日向は、秘密厳守と「エクスプローラー」への協力を条件に放免され、以後、この廃駅で暮らす人々と関わっていくことになります。

 「エクスプローラー」の一人が殺されたことから、物語は急展開を見せます。小日向もその中に巻き込まれていくことになりますが、これからお読みになる方にとっては興ざめになりましょうから、詳しくは記しません。ただ、後半は他の「廃駅」も登場しますとだけは申し上げておきます。

 ストーリーについてはともかく、「エクスプローラー」たちが地上に出る際の「出入口」となっている地下鉄神田駅構内の証明写真ボックスの描写は、本当に地下空間につながっているのではと思わせますし、小日向が常連の「中野レールウェイ」なる、中野にあるという「鉄」の巣窟のような喫茶店は、常連になるか否かはともかくとして、一度は行ってみたいと思いました。(もちろん実在するお店ではありませんが、ここの常連客たち、なかなかの人物揃いです)

 

 本書は、東京の地下鉄の歴史に興味のある私としては、大いに楽しんで読みましたが、東京の地下鉄の「廃駅」、やはりそんなに数多くあるわけではありません。これがロンドン地下鉄となると、「廃駅」についての本もでていますし、「廃駅」が重要なテーマとなるミステリー小説もあったと思います。機会があればこちらもご紹介したいと思います。

 

 

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