変わる交通の常識②電鉄経営 | 鉄道きさらんど

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いつも列車・バスなど公共交通の事ばっか考えてます。

今までは日本の私鉄や国鉄改革後に発足したJRのビジネスモデルは世界の鉄道の中でも例を見ない日本ならではの成功例だとされてきた。それが「電鉄経営」というビジネスモデルである。沿線を開発し住宅や商業施設や遊園地を作り乗客を増やしていき関連事業も盛り上げていくというもの。今回のパンデミックはそういうビジネスモデルを強いてきた日本の鉄道会社に打撃を与えている。いや、日本の場合は同じくパンデミックに渦中にある諸外国と比べると鉄道経営を民間に任せて沿線開発を行わせ雇用や人口や税収を増やさせていたし、ホテルやデパートや遊園地の業界も鉄道会社の影響力が大きい。そういうわけで地方財政や雇用や経済効果への打撃は世界の諸都市より日本のそれのほうがより深刻にもなりうる。

 

つい最近までは満員電車でもみんな無言で唾を飛ばさないし換気装置があるから大丈夫だという楽観的な見方をマスコミやネットでも主流だった。確かに電車がクラスター感染の場所となったことはない。これは不要不急の行楽などは自粛させても企業の為通勤はやめさせたくないという財界への政治的配慮もあったと思う。しかし、今や人との接触の機会自体を激しく減らすべき、夜の街での遊びではない仕事でも人と密接に顔を突き合わせて会話することだけでも感染のリスクが認識されるようになりテレワークできる所はテレワークすべきという風に風潮が変わり通勤電車の乗客や駅の利用客数自体を刈り込むことの必要性が訴えられるようになった。これ自体が鉄道会社の本業の経営に影響があるし、民鉄など多角経営の優等生的な会社(グループ)であっても関連事業も自粛ムードで大打撃である。これはいつか揺り戻しが来るとしても、鉄道業界だけでなく沿線地域の経済自体にダメージがあるだろう。国内の外出自粛ムードがまた緩和されても、訪日観光客は向こう数年は客足が戻らないし、そうなると百貨店や遊園地は閉鎖に追い込まれるところが続出してしまうだろう。このパンデミックが起こる直前に山形のデパート「大沼」が破綻し、山形県は百貨店のない県となったことが話題となった。これだけなら地方衰退のエピソードとして東京など大都会の人には対岸の火事にように違和感なく受け入れられたが、今後は大手鉄道会社が系列の店舗を有する5大都市圏でもデパートが続々閉店をする衝撃な光景が見られるかもしれない。もちろん遊園地も…。電鉄系デパートやテーマパークは鉄道との相乗効果が見込めるため非鉄道会社系のデパートやテーマパークより手堅そうなイメージがあるがそういう優位はなくなるだろう。(もし来年も東京五輪ができないとなったらインバウンド需要はもちろん、国内の消費や行楽マインドも委縮したままだろうし。)

 

そうなると、いかにもローカル鉄道のローカル線という路線だけでなく、都市部の大手事業者の都市近郊路線も維持が難しくなりそう。首都圏でも西武はサーベラスが末端区間の廃止を要求していたのを思い出したが、そういう動きが再燃しかねない。大都市圏でも関西や愛知などはもっと深刻で、名鉄や近鉄はローカル線を多く抱えていて廃線の危機になりかねない。今は大手私鉄ではないが、神鉄の粟生線などはそう遠くない将来立ち行かなくなりそう。大都市圏の主要な会社の稼ぎ頭となる路線もダイヤなどのサービスが低下しかねない。ニュータウンよろしく、民鉄沿線の会社が開発した住宅地もさびれかねない。そうなると公共交通を民間に任せてきて、沿線開発や街づくりも鉄道事業者依存で何とかなった今までの考え方では地域社会が維持できなくなりかねない。