駅名には反対でも~高輪新駅をめぐる本 | 書斎の汽車・電車

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 先月開業した「高輪ゲートウェイ」駅、駅名についてだけでなく、駅の案内を担当するAIの対応ぶりについても、問題になってしまいました。

 私も当ブログで駅名に疑問を呈しましたが、鉄道書の世界では、意外と今回の新駅誕生をめぐる本が出ている印象です。今回はそんな本のご紹介をしましょう。

 

 まずは雑誌から、『鉄道ファン』誌4月号が特集「思い出の東京機関区」、『鉄道ピクトリアル』誌4月号は特集「品川・田町の記録」となっております。また、『鉄道ジャーナル』誌は新駅の開業を待つ形で、5月号の特集を「品川駅の現在」としています。

 駅名についての違和感はともかく、やはり山手線久々の新駅というインパクトの大きさ、品川駅が日本最古の駅であるという歴史性、そして何より新駅の場所(田町駅と品川駅の間)が、かつての東京機関区、品川客車区、田町電車区、品川機関区などがある鉄道趣味のホットスポットであったことが大きいのでしょう。(これに山手線の品川電車区、新幹線の東京第一運転所なども加わります)

 

 思えばこの界隈の特集は、『鉄道ファン』誌が1978年3月号で早くも取り上げていますし、より学術的な本としては、原田勝正氏の『駅の社会史』(中公新書→中公文庫)が第4章をまるまる品川駅の改良工事に充てています。今回の各誌の特集はというと、やはり『ピクトリアル』誌が一番まとまっているように感じましたが、東京機関区に特化した『ファン』誌の乗務員の回顧談も貴重ですし、現状を重視した『ジャーナル』誌も後世のファンにとっては得難い記録になるのでしょう。

 

 で、単行本はというと、いのうえ・こーいち氏による『高輪ゲートウェイ そこは鉄道好きの「聖地」だった』(メディアパル)という写真集が出ています。著者のいのうえ氏もまた、新駅の駅名への「違和感」を表明されながらも、かつての「国鉄黄金時代」の花形車輛が屯した車輛基地が集約されていた時代を懐かしんでいます。

 いのうえ氏の写真の多くは、東海道新幹線開業前のものでして、これはやはり、東海道在来線黄金時代の方が、スター揃いで面白かったということに加えて、昭和40年代以降は、現場へのファンの立ち入りが厳しく制限されるようになったこともあるようです。本書は、客車好きの著者らしく、品川客車区の比重が高いです。当時の新車である20系はさらりと紹介して、あとは在来型客車のオンパレードです。戦前、戦後の様々な寝台車、2等車、そして数なら一番多い3等車、食堂車そして引退間際の1等展望車に加えて、珍車を愛するいのうえ氏のことですから、例の現金輸送車マニ34はもちろんのこと、貨車改造の荷物車ナニ2500や、荷物車代用のワキ700(戦時中に航空爆弾等の専用車として製造された貨車)、事業用車のマヤ38、オヤ31、スヤ71、コヤ90といった「濃い」面々も登場します。

 田町電車区については、151系、153系、155系、157系といった新幹線開業前の大スターがメインですが、70系や80系ももちろん紹介されていますし、田町では後年まで目立つ存在だった「貴賓車」クロ157、「スピードスター」クモヤ93、それにクヤ99やクモヤ22、クモエ21といった事業用車も登場します。

 東京機関区といえば、東京駅発の特急列車を担当する名門中の名門機関区ですが、本書でも、EF65、EF60、EF58、EF53といった歴代のスターが登場します。(さすがにEF50は出てきません)私もEF65Pは今でも大好きな機関車ですし、ここのEF58といえば、御召機である61号機が所属しており、やはり特別な機関区だったのだなと思います。私個人の好みをいえば、「ロクイチ」はもちろん嫌いではありませんが、88号機のファンでした。

 一方の品川機関区はというと、地味な入換機DD13(一ツ目の若番が多かった印象があります)ばかりで、どうしても華やかさはありません。本書でも扱いは大きくはないのですが、DD12の写真がさりげなく出てきます。さすがに明治生まれの蒸機「B6」は出てきませんでした。

 

 本書を眺めていますと、かつてこの界隈を電車で通りかかったときの「今日は何がいるかな?」という、あのわくわくする気持ちが甦ります。国鉄の民営化後は次第に寂しくはなりましたが、それでも、平成に入ってからでも「検重車」ケ10なんていう珍車を見かけることもありましたし、いつまでも「聖地」であってほしいと思ったものでしたが、新幹線の品川駅開業の頃から、このあたりの再開発も加速していったように思います。それでも、電留線は残りますし、最近では常磐線電車が品川まで入ってきます。そして将来は中央リニアの駅もできるとのことで、「ホットスポット」であることに変わりはないのかも知れません。