JR四国が陥った袋小路。国交省は経営自立を求めるが

四国新幹線の道筋を

国土交通省が、JR四国に対して経営改善をすすめるよう指導しました。利用促進やコスト削減に取り組む新たな経営計画の策定を求めましたが、先行きは見通せません。

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目標達成が困難で

国土交通省は、2020年3月31日に、JR四国に対して経営改善に向けた取り組みを着実に進めるよう指導しました。2011年に策定した経営自立計画や、2017年に策定した中期経営計画で掲げた利益目標の達成が困難になっているためです。

JR四国は、2011年の経営自立計画で、2020年度に経常利益3億円、売上高経常利益率1%の達成を掲げていました。また、2017年の中期経営計画では、2020年度に鉄道運輸収入228億円、事業収入などを含めた全体で302億円の売上高と3億円の経常黒字の目標を掲げていました。

しかし、JR四国がこのほど発表した2020年度の事業計画では、2021年3月期に12億円の経常赤字を見込んでいます。鉄道運輸の営業収入は235億円で中期経営計画の目標を上回るものの、全体の売上高は270億円にとどまります。

しかも、この数字は新型コロナウイルスの感染拡大による影響は反映しておらず、今後下振れする可能性が高いです。経営自立計画や中期経営計画の目標達成は困難であることがはっきりしたわけです。

JR四国8000系

国土交通省の「指導」

こうした状況を受けて、国土交通省が経営改善を指導をするに至りました。指導の内容は以下の通りです。

1. 経営自立計画が未達となった原因の分析・報告
2. 2020年度事業計画に記載した取組の実施状況について、四半期ごとに鉄道局とともに検証し、情報を開示
3. 10年間(2021年~2030年度)の長期経営ビジョン及び5年間(2021年~2025年度)の中期経営計画の策定と、これらに盛り込んだ取組について、四半期ごとに鉄道局とともに検証し、情報を開示
4. 外部の厳しい意見・アドバイスを経営に反映させる仕組みの構築
5. 5年間(2021年~2025年度)の事業計画の策定、地域の関係者と一体となった利用促進やコスト削減などの取組の実施、あるべき交通体系の徹底的な検討、取組結果の毎年度の検証及び最終年度における総括的な検証の実施

国交省は2018年、JR北海道に「監督命令」を発令し、経営を監視下に置いています。JR四国に対しては「指導」となり、「命令」に比べれば弱いニュアンスですが、内容に大きな違いはありません。

長期と中期の経営ビジョンの策定、四半期ごとの検証と情報開示、「あるべき交通体系の徹底的な検討」を求めている点などは、JR北海道への監督命令と同じです。

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「取り組み例」は示されたが

国土交通省の指導を受け、JR四国は、今後、経営改善の取り組みを盛り込んだ経営計画の策定を進めることになります。

国土交通省は、今回の指導で、経営改善の取り組み例として、以下を挙げています。

・鉄道特性を有する路線及び関連事業における収益の最大化
・観光列車などインバウンド観光客を取り込むための施策の充実
・経営安定基金の運用方針の不断の見直しを通じた運用益確保
・JR四国グループ全体を挙げてのコスト削減や意識改革
・地域の関係者との十分な連携による運輸収入・輸送密度の改善及び業務運営の一層の
効率化

「あるべき交通体系」

国交省は今回の「指導」で、JR四国に対し、2021年度に策定する5年間の事業計画において、利用促進やコスト削減、実証実験や意見聴取などの取り組みを行ったうえで、「持続的な鉄道網の確立に向け、2次交通も含めたあるべき交通体系について、徹底的に検討を行うこと」も求めています。

「あるべき交通体系」の「徹底的な検討」というのは、利用者の少ないローカル線の廃止とバス転換を検討せよ、という意味に受け取れます。JR四国はこれまで路線廃止の姿勢を明確にしてきませんでしたが、今後は検討を余儀なくされるでしょう。

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経営自立はできるのか

ただ、今回の指導に従ったとして、JR四国が経営自立を成し遂げられるかは、不透明と言わざるをえません。国交省が示した「取り組み例」を見てみれば容易に想像できます。

たとえば、「鉄道特性を有する路線及び関連事業における収益の最大化」は、鉄道会社であるJR四国にとって基軸となるべき取り組みですが、そもそもJR四国には「鉄道特性を有する」ような輸送密度の高い路線はほとんどありません。

以下は、JR四国の区間別輸送密度(平均通過人員)ですが、鉄道特性を活かせそうな8,000人以上の区間は高松周辺の一部のみです。

JR四国平均通過人員
画像:「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」JR四国資料

「関連事業における収益」を追求するにしても、四国は人口も少なく、政令指定都市もなく、沿線での展開は限られます。

「観光列車などインバウンド観光客を取り込むための施策」は、売上の足しにはなっても、会社を支えるほどの収益に育てるのは困難です。

「経営安定基金の運用方針の不断の見直しを通じた運用益確保」については、超低金利を国策としている政府が何を言っているのかという印象です。「コスト削減」には限りがありますし、「意識改革」は精神論の領域です。

「地域の関係者との十分な連携による運輸収入・輸送密度の改善及び業務運営の一層の効率化」も抽象的で、大きな収益を生むための現実的な方策に落とし込むのは難しいでしょう。

国交省がこうした「取り組み例」しか例示できないことに、JR四国の袋小路が見て取れます。

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JR北海道との違い

JR四国以上の経営難に苦しんでいるJR北海道は、2030年度に控えた北海道新幹線札幌開業という明るい材料があります。北海道新幹線は現在は赤字ですが、札幌開業となれば、東京~札幌間の太い需要を考えれば悲観する材料ではありません。赤字の在来線を第三セクターとして切り離し、東京直結の新幹線が手に入るのですから、経営的にはプラスです。

それにくわえ、JR北海道の場合、札幌圏は収支均衡です。極論をいえば、北海道新幹線と札幌周辺の電化区間に路線を絞り、地方の赤字ローカル線を切り離せば、同社は存続可能です。

これに対し、JR四国エリアに新幹線の開業予定はありません。下図はJR四国の区間別営業係数ですが、黒字区間(100未満)は本四備讃線のみ。150未満の区間も予讃線と高徳線の一部に限られます。赤字路線を片っ端から廃止しても、JR四国の将来像は見通せないのです。

JR四国営業係数
画像:「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」JR四国資料

高速道路整備で利用者減

JR四国の利用者減少は、四国内の高速道路網の発達と軌を一にしています。下表は、JR四国の利用者数、鉄道運輸収入と、高速道路整備の関連を示しています。

高速道路とJR四国利用者数
画像:「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会Ⅱ」JR四国資料

高速道路の延伸に伴い、JR四国の利用者が減っていることが見て取れます。貧弱な在来線では、中長距離輸送でマイカーや高速バスに対して優位に立てないのです。

おまけに、JR四国では路線全体の約75%が経年80年を超えるなど老朽化が進んでいて、設備の更新や大規模修繕が増加する傾向にあります。一方で沿線人口は減少しており、沿線住民による大幅な利用者増は見込めません。

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四国新幹線を作るのか

JR四国に起死回生の切り札を与えるとすれば、鉄道の高速化でしょう。高速道路網が発達したいま、JR四国が生き残るには、新幹線を整備し鉄道の高速化を図るほかないように思えます。実際、新幹線は在来線特急に比べはるかに多くの利用者があり、JR各社の経営の屋台骨となっています。

要するに、JR四国が将来像を描くには、四国新幹線を建設するのか否かを政府が決めて、提示する必要があるように思えます。

四国新幹線は「基本計画路線」とされていて、本当に建設するのか曖昧な位置づけになっています。新幹線整備には賛否がありますし、必ずしも建設する必要はないでしょう。そもそも、JR四国の経営改善のためだけに整備するようなものではありません。

しかし、JR四国の経営が瀬戸際に立ち、「あるべき交通体系の徹底的な検討」を政府が求めるなら、新幹線を作るか否かの大方針くらいは、そろそろ示す時期に来ていると思われます。

早く道筋を

四国新幹線を作らないのであれば、四国の鉄道はいずれ大幅な縮小が避けられないでしょう。作るのであれば、JR四国や地元自治体は、それを見越した交通体系の構築を考える必要があります。

国交省も何もしていないわけではなく、基本計画路線を含む新幹線整備の課題を抽出するために、2017年度より「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査」を開始しています。この調査では、瀬戸大橋区間の新幹線建設や、単線新幹線についても検討されています。いずれも、四国新幹線を意識した調査内容です。

ローカル線ばかりのJR四国に黒字化を求めるだけでは無理があります。国交省は、JR四国に指導するだけでなく、四国新幹線の道筋も早く示してほしいところです。(鎌倉淳)

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