その10(№5101.)から続く

今回と次回は、当連載の「最終回スペシャル」として、「目蒲線」の将来を占ってみたいと思います。「目蒲線」は現在、目黒線と東急多摩川線に分割されてしまいましたが、双方とも今後は大化けする可能性を秘めています。
そこで、目黒線と東急多摩川線に分けて、その「未来予想図」を見ていきましょう。

まずは東急多摩川線から。
東急多摩川線は、18m級の中型車3連が行き交い、両端駅以外では地べたから乗り降りが可能であるという、欧米基準ならLRTに分類されてもおかしくない路線ですが、このような路線が、ある2つの路線の計画によって、大化けする可能性があります。
その2つの路線の計画とは、「蒲蒲線」と「エイトライナー」計画です。

【蒲蒲線計画】
「蒲蒲線」とは、東急の蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ新線を作る計画です。東急・JRの蒲田駅と京急蒲田駅とは800mほど離れており、徒歩での連絡には難があります。その距離を新線でつなぐことができれば、特に羽田空港利用客にとって劇的な利便性の向上が見込まれます。特に東急の沿線でもある目黒区や世田谷区南部・大田区北西部などからは、直線距離の割には羽田空港への鉄道でのアクセスには難があるのですが(鉄道だけだと渋谷から山手線で品川又は浜松町へ向かうか、大井町又は蒲田から路線バス利用)、それが大きく改善されるからです。
実際の計画は以下のとおり。ただし「第2期」に関しては、東急多摩川線と京急空港線の軌間が異なること、両区間を直通運転するための軌間可変電車の実用化には技術的な問題があることから、今後の検討課題としています。


第1期:東急多摩川線の矢口渡駅付近から京急蒲田駅直下まで地下新線を建設し(蒲田駅は地下化)、東急多摩川線の全列車乗り入れ。
第2期:京急蒲田駅直下の新駅-京急大鳥居駅間の新線を建設、開発中の軌間可変電車(フリーゲージトレイン)によって目黒線だけではなく、東横線、さらに直通先の地下鉄副都心線、東武東上線・西武池袋線方面からの直通列車を東急多摩川線経由で運転。
 

「蒲蒲線計画」には東急もかなり乗り気のようで、この計画を描いたポスターが東横線渋谷駅に貼られていたこともあります。実際の整備は、第1期の京急蒲田駅直下までの新線建設となるのでしょうが、そこに東急多摩川線の全列車が乗り入れることになります。
もっとも、第2期の完成を待たなくとも、東横線・目黒線方面からの直通列車を運転すること自体は可能です。もしこれが実現すると、一度は頓挫した13号線の羽田方面への延伸計画が、形を変えて復活することにもなり、さらに西武線・東武東上線方面から羽田空港への利便性が向上することにもなります。
この計画にも問題点があり、それは、①池上線が孤立することと、②その関係で東急多摩川線の車両をどこに留置・収容するかということです。①の問題に対しては、恐らく、京成が金町線の高架化で実行したように、地平にあった線路を連絡線として残すこと、具体的には矢口渡-蒲田間の現有の線路は、池上線との連絡線として存置されることになるでしょう。
これに対して②の問題、つまり車両基地の問題は深刻です。単純に、現行の東急多摩川線の列車をそのまま「蒲蒲線」に入れるのであれば、2~3編成の所要編成数増加で済み、基地は雪が谷のままで済みます。問題は、目黒線あるいは東横線からの直通とするとき。この場合には、池上線との共通運用を解消し、大型車の8連又は10連が走ることになります。そのときの増加する編成をどこに留置・収容するか。東横線及び目黒線の車両の基地である元住吉検車区は、既にパンク寸前の状態で、これ以上所属車両を増やせません。それなら奥沢を転用…といっても、あちらも相鉄直通・8連化をにらんで改修工事中ですから、あそこも余裕は乏しいでしょう。
さらに大型車の8連又は10連を受け入れるとなると、東急多摩川線の各ホームを延伸しなければなりません。しかしどれも地平駅のため、用地には余裕がない駅がほとんどです。特に問題なのは鵜の木駅。あそこは中型車の4連ですら1両はみ出していたのに、大型車の大編成に対応できるわけがありません。高架化か地下化が必要になりますが、果たしてそこまでやるかどうか。
また別の問題として、東横線・目黒線からの直通列車を受け入れるとなると、両路線の運転系統が複雑になりすぎる(異常事態発生時のリカバリーが大変になる)という問題、さらに多摩川線の線内列車と並立するとなると、扉位置の異なる大型車と中型車が併存する問題も生じます。
これらの問題があることからすると、仮に「蒲蒲線」が実現したとしても、東急多摩川線の列車をそのまま入れるだけになると思われます。

【エイトライナー計画】
「蒲蒲線」以上に、東急多摩川線に大きな影響を与えるであろう計画がこれ。この計画は、環状八号線(環八)の真下に地下鉄を建設し、都心部から放射状に延びる路線を結ぶ環状路線として整備するというもので、区間は「(羽田空港-)蒲田-田園調布-上野毛…赤羽」となっています。
注目していただきたいのは、「(羽田空港-)蒲田-田園調布」間において、「蒲蒲線」も含めた東急多摩川線が、ほぼ全線で並行していること。もともと東急多摩川線自体が、環八に並行するルートをとっているので、このこと自体には不思議はありません。
そうなると、仮に「エイトライナー」計画が実現することになった場合、並行路線となる東急多摩川線の処遇は大きな問題となります。
現在「蒲蒲線」計画は京急蒲田駅直下までの延伸が実現する可能性が高くなっていますから、仮に「エイトライナー」完成と引き換えに東急多摩川線を廃止するとなると、せっかく作った「蒲蒲線」が早期に廃線にせざるを得ないことになります。流石にそれは勿体ないでしょうから、実際には東急多摩川線を生かし、多摩川から延伸することになると思われます。つまり、東急多摩川線は「エイトライナー」の一部に組み込まれる可能性がある、とみる方が自然でしょう。
ただ、この場合は、東横線・目黒線方面からの直通列車を「エイトライナー」の一部となった東急多摩川線に入れるかという問題は出てきます。理由は言うまでもなく、運転系統が複雑になりすぎるから。
仮に東急多摩川線が「エイトライナー」の一部として組み込まれてしまうと、今度こそ池上線が本当に孤立してしまうことになり、現在長津田で行っている、池上線車両の検査をどうするかという問題が浮上します。流石にいちいち陸送というわけにはいかないでしょうから、どこかに連絡線を作ることになるでしょうが。池上線-大井町線の連絡線を作る? 池上線車両のためだけに、雪が谷に工場設備を復活させるのも現実的ではないような。
東急多摩川線の将来を占うにあたって、懸念しなければならないのは、「蒲蒲線」計画ではなく、「エイトライナー」計画かもしれません。
もっとも、「エイトライナー」計画は事業主体も決まっておらず、採算性も不透明であることなどから、実現可能性は今のところ低いと思われます。

次回は、目黒線側の「大化け」する要素、相鉄直通の可能性について見ていきます。

その12(№5120.)に続く