昨年秋、イカロス出版から『ヴィンテージ・レイルズ』という新雑誌が創刊されました。本来ならその時点でご紹介すべきところでしたが、諸般の事情で機会を逸してしまい、今回第2号が出たタイミングでのご紹介となりました。まあ、創刊号というのは、綿密な準備の下で作っているでしょうし、気合が入った、面白い誌面となっているのはむしろ当然のことでしょうから、第2号を見てからご紹介するのもありかなとも思います。
『ヴィンテージ・レイルズ』誌の編集長は藤井良彦氏、主筆に松本謙一氏という陣容です。想定する読者は60代、50代だそうで、「シニア向け」といえるでしょう。
この「シニア向け鉄道趣味誌」というジャンル、元祖は昭和53(1978)年創刊の『レイル』(プレス・アイゼンバーン)でしょう。『レイル』は当初月刊、のちに季刊、不定期刊となり、現在ではほぼ季刊ペースになっています。この雑誌の読者層、当初はいわゆる「戦前派」のファンでしたが、当然読者、執筆者とも世代交代は進んでいます。それでもベテランファン向けというのは変わらないところです。
その後、このジャンルに属する雑誌としては、蒸気機関車に特化した『蒸機の時代』(プレス・アイゼンバーン)や、国鉄形車輛メインの『国鉄時代』(ネコ・パブリッシング)があります。(いずれも季刊)また、『ヴィンテージ・レイルズ』の版元であるイカロス出版の刊行物の中にも、どちらかといえばシニアを意識したものが見受けられます。このほか、鉄道系ではない出版社の中にも、シニア向け鉄道誌を出したところがあったと記憶しますが、いつの間にか姿を消したようです。
もっとも、特に「シニア向け」と特に謳っていなくても、『鉄道ピクトリアル』『鉄道模型趣味』といった老舗の鉄道趣味誌の読者層は、今ではかなり高めではないかと思います。
さて、『ヴィンテージ・レイルズ』誌の内容ですが、創刊号は日豊線のC57や飯田線の旧型国電といったある意味「鉄板」の内容でしたが、今回の第2号はというと、「東京が変わった!1964~1970」と題して、オリンピックから万国博に至る時期の東京の鉄道を特集しています。この時代の鉄道を振り返るにしても、日本全体ではなく「東京」に絞ったのが特徴でしょうが、私はこれでよかったのではないかと思います。日本全国を対象とすると、何だか散漫になってしまいそうですが、東京とその周辺に限定することで、内容が濃くなったのではないかと思います。消えゆく蒸気機関車の写真も、主に23区内のものとなっていますし、私鉄の旧型電車の写真も貴重です。そして、主筆に松本氏を迎えたこともあり、実物だけでなく模型も取り上げるということで、「鉄道模型界も激変したこの5年間」という記事もあります。こちらも16番の黄金時代かつNゲージの黎明期ということで、興味深く拝見しました。
古い時代の写真を多く掲載しているのもこの雑誌の特色です。連載で小川一眞写真店、西尾克三郎氏、杵屋栄二氏、細江正章氏といったレジェンドの写真を堪能できます。また、ベテランの趣味人へのインタビューも「売り」の一つでして、創刊号の宮澤孝一氏に続いて、本号では『鉄道ファン』誌の編集長を長く務められた宮田寛之氏が登場されています。自らの趣味活動だけでなく、編集者として接した趣味人たちの様子も語られており、貴重な記録となっています。この、趣味人へのインタビューを通じて「鉄道趣味史」を明らかにしていこうという試みは他誌でももっと行われていいように思いますし、各大学の鉄道研究会のOB会のネットワークなども、もっと活用されていいのではないかと思われます。
個人的には、今回の第2号では、松本氏による連載「現存古典機を訪ねて」(東武鉄道5・6号機)の中で、東武の木造旧型ワフが、近代的な車掌車と同じ淡緑色に塗られていた(黒塗りと混在していた)というのが初耳でした。ちょっと模型で再現してみたくなりますね。また、これはフィクションになってしまいますが、西武の木造ワフも、鋼製ワフと同じ青色に塗ってみたくなりました。
いささか話がそれましたが、『ヴィンテージ・レイルズ』誌、第2号も大いに楽しめる内容でした。次号が待ち遠しいですね。そして、シニア層だけでなく、鉄道趣味人全体に広くお薦めできる雑誌であると思います。