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2020年の鉄道車両動向のなかで現在注目されているのが「北陸鉄道・長野電鉄への東京メトロ03系譲渡」。地方私鉄などでは大手私鉄の譲渡車両たちが広く使用されている。
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東京メトロ03系改め「長野電鉄3000系」、03系電車は3ドア車体の車両が譲渡対象になっており北陸鉄道や熊本電鉄にも東京メトロからの譲渡車両が納入されている。(長野電鉄公式サイトより)

【譲渡・移籍車両の種別】
譲渡・移籍車両の区分としては、
・グループ会社から譲渡もしくは購入
・グループ以外の事業者から譲渡もしくは購入
の2形態に区別されている。

「グループ会社に譲渡・購入」
実態例として挙げられているのが、
・西武鉄道から近江鉄道へ(近江鉄道は西武グループに属する)
・東急電鉄から伊豆急行へ(伊豆急行は東急グループに属する)
・東急電鉄から上田電鉄へ(上田電鉄は東急グループに属する)
・阪急電鉄から能勢電鉄へ(能勢電鉄は阪急阪神グループに属する) 
などの譲渡形態で、譲渡元(親会社・グループの大手私鉄)の路線で新型車両が導入された際に廃車となる車両の一部で譲渡先(子会社・グループの中小私鉄)の老朽車両を置き換えるケースが多い。線路が直接つながっている会社同士では線路使用料の相殺を目的に車両が譲渡されるという特殊な一例も存在する。

「グループ会社以外に譲渡・購入」 
資本関係上別々のグループに属する会社同士で車両の譲渡契約・購入契約が結ばれるケースで、
・東京メトロ・東京都から熊本電鉄へ
・京急電鉄・京王電鉄から高松琴平電気鉄道へ
・東急電鉄・京王電鉄から一畑電車へ
など2社以上の会社から車両の供給を受けているケースや
・東急電鉄(東急グループ)から伊賀鉄道・養老鉄道(近鉄グループ)へ
のように「大手私鉄」から「別の大手私鉄傘下」に移籍するケースもいくらか存在している。 

以下のケースでは、実際に広範囲に譲渡が行われたケース(東急・西武・京王・東京メトロ・東京都の特に譲渡先が多い5社)と譲渡先のあまり多くない社局(小田急・京急・近鉄・南海・阪急・京阪)の譲渡ケースについて「譲渡先・再譲渡先で現役」の実情を解説している。
【東急からの移籍】
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東急電鉄は比較的初期から「ステンレス」車体の車両が多く運用されており、車両への塗装コストを最小限に抑えられること、車体の老朽化が遅くメンテナンスさえ怠らなければ長期間使用できること、譲渡車両の車体長である18メートル車体が地方私鉄にとって最も適した車両であったことなどから東急グループ内外の多数の事業者(北海道〜九州)に広く供給された。特殊なケースとして横浜高速鉄道は東急線内での事故廃車車両の補償として車両の譲渡を受けている。
[グループ間]
伊豆急行・上田電鉄・横浜高速鉄道

[グループ外(現存)]
弘南鉄道・福島交通・長野電鉄・秩父鉄道・富山地方鉄道・豊橋鉄道・北陸鉄道・大井川鐵道・一畑電車・養老鉄道・伊賀鉄道・水間鉄道
※大井川鐵道の車両は十和田観光電鉄からの再譲渡車両


【西武鉄道】
西武鉄道も他社譲渡車両が多く、101系や401系などが譲渡種車としてグループ内外の事業者に供給されている。鋼製車両であるためか盛大な改造を受けるケースもあり、近江鉄道に譲渡された401系の中には前面が原型を留めないレベルで改造された車両、車籍上は大正時代生まれで事実上「テセウスの舟」と化している車両など訳の分からない状態になっている車両もいる。
[グループ間]
近江鉄道・伊豆箱根鉄道

[グループ外]
上信電鉄・三岐鉄道・流鉄・秩父鉄道・富山地方鉄道・大井川鐵道
※大井川鐵道の車両は電車を客車に改造


【京王電鉄】
京王電鉄もかつては中小私鉄への車両譲渡が盛んな事業者で、5000系や3000系が関東・北陸・中四国を中心に多数譲渡されている。グループ企業に車両の整備・改造を担う「京王重機整備」があり同社で改造された車両が各地に供給されている。中には機器類も座席も窓も化粧板も何もかも取り払ってトロッコ客車にしてしまった車両なんてものも存在している。
[グループ外]
伊予鉄道・北陸鉄道・一畑電車・岳南鉄道・富士急行・アルピコ交通・銚子電鉄・わたらせ渓谷鉄道・上毛電気鉄道
※銚子電鉄の車両は伊予鉄道からの再譲渡車両
 

【東京メトロ・東京都】
地下鉄から譲渡される車両のケースも存在しており、東京メトロからは熊本電鉄や長野電鉄・北陸鉄道へ、東京都からは熊本電鉄・秩父鉄道への譲渡車両がそれぞれ在籍している。また、両社の車両はインドネシアなど海外への譲渡車両としてJR東日本・東急の車両とともに海外で活躍しているケースも多い。また、01系は集電方式を変更するという国内では銚子電鉄(東京メトロ種車)・高松琴平電気鉄道(名古屋市営地下鉄種車)向け改造車などでしか確認されていないような大規模な改造を行なっている。
[グループ外]
秩父鉄道・熊本電鉄・長野電鉄・北陸鉄道


【その他】
[小田急]
・富士急行
・長野電鉄
小田急からの譲渡車両で現役なのはHiSEとRSEという2つの特急用車両で、JR規格の大型車両が入線している富士急行(RSE)と長野電鉄(HiSE)の2社に譲渡された車両が存在する。いずれも在来車両(富士急行はJR東日本からの譲渡車両、長野電鉄は自社発注車)の置き換え車両であり、富士急行では自社特急「フジサン特急」、長野電鉄では「ゆけむり」の愛称で管内の特急列車に使用されている。

[京急]
・高松琴平電気鉄道
京急からの譲渡車両が集中しているのは香川県の高松琴平電気鉄道(ことでん)。初代・2代目の700形電車と初代1000形が譲渡されており琴平線と長尾線の主力車両として使用されている。特に「2代目700形」は後継の800形が引退した現在でも譲渡された全車が現役で、「京急の変わり種車両」の歴史を生で感じることが現在も可能である。

[近鉄・南海]
・大井川鐵道
関西の私鉄各社の車両の多くは長期的に使用されるケースが多く、他社へ譲渡されるケースというと路線ごと他社に移管される場合が多い。その形態の代表例が「近鉄→伊賀鉄道・養老鉄道・三岐鉄道」「南海→和歌山電鐵」のケースで、近鉄と南海の現役譲渡車両で限れば大井川鐵道の一例くらいしか存在していない。

[阪急]
・能勢電鉄
阪急電鉄も他の関西私鉄と同様に製造から廃車解体まで一貫として同じ事業者のもとで使用され続けられているが、ごく一部が能勢電鉄に譲渡され使用されている。最も特徴的なケースとしては「車両使用料の相殺を目的に譲渡」という形態での譲渡(6000系)があり、所属会社のマークが異なる点を除けば外見上元の所属先と同一の車両が阪急車両に混じって走っていたりする。

[京阪]
・富山地方鉄道 
京阪では初代3000系の車体と内装を富山地方鉄道に譲渡し、主力車両として使用している。普通・特急の双方で使用されているほか、日本では唯一となるダブルデッカー車の譲渡ものちに実施された。ちなみに、当初の計画では「京阪からは座席だけを譲渡、車体は阪急2800系を2ドアに復元して使用」という計画があったという(のちに、京阪3000系を車体ごと譲渡する方針に切り替わったために前述の計画は白紙となっている)。