KATOの313系の従来製品を5編成所有していますが、2両編成の2300番台は片側台車しか駆動されていないため、勾配の登坂性能が弱くて、無動力仕様の増結編成を併結しての登坂が出来ない等の制約があります。そこで、2300番台の走行性能を改善してみることにします。

 

クモハ313の3000番台(左)と2300番台(右)です。外観上の違いとしてヘッドライトの両側にある表示幕部分で、製品化が古い3000番台では非照光式・白色幕となっていますが、その後の改良製品である2300番台では照光式・黒色幕となっています。

 

手前側の313系3000番台2両セット(10-423)が2002年製、奥側の313系2300番台2両セット(10-588)が2009年製です。何れも、クモハ313(動力車)+クハ312の構成になっています。

 

両セットの動力車を床下側から比較してみると、手前側の3000番台では台車が前後とも動力台車の全軸駆動になっていますが、奥側の2300番台では後位側のみ動力台車で2軸駆動と半減しています。その理由は、2300番台にはDCCデコーダーを装着可能としたためとのことです。

 

更に、3000番台の動力台車の車輪はゴムタイヤ(トラクションタイヤ)付となっていますが、2300番台は他の動力付き編成と併結した際の協調運転のために、動力台車の車輪がゴムタイヤなしの金属車輪(通常車輪)になっています。以上のことから、2300番台は勾配登坂に対しては非力であろうと容易に想像がつきます。

 

2300番台ではどのくらい勾配登坂力がないのか、手持ちのレールで構成した勾配区間で確認してから、改善方法を模索することにしました。

右端に発泡スチロール欠片を置いた箇所から勾配が始まり、鉄橋入口まで勾配が続きます。勾配区間は、全長(床面での距離)は約1100mm,レール面での高低差が63mm(鉄橋で床面から70mm,平坦部で床面から7mm)となっていますので、計算上は63/1100≒0.0572で約5.7%の勾配となります。実際は、写真からも判りますが、勾配開始部分は緩やかな傾斜で途中から勾配がきつくなり、勾配最後の区間は再び緩やかな傾斜に戻っていますので、中間の最急勾配区間では6%程度になっていると思われます。

 

このように緩やかな区間を設けた理由は、313系2300番台の車両特性を考慮したものです。勾配開始箇所でレールが急激に折れ曲がると、集電不良が発生する可能性がありこれを防止するためです。勾配終了区間の鉄橋入口部分ではレールが急激に折れ曲がると、床下機器(モーターカバー)の底面がレールに接触して車両が停止してしまうので、これが発生しない程度の折れ曲がりとするためです。

 

道床の色が灰色から茶色に変わる箇所で、勾配が始まります。車両が停止している位置(勾配開始点まで370mm)からスタートし、助走をつけて勾配に臨みます。どのような条件でも、供給電圧が一定となるようにテスターで監視しています。全軸駆動の3000番台2両編成は、中速走行となる6Vで難なく登り切りました。

 

では、2300番台の登坂試験を開始します。動画を使えれば良いのですが、そのスキルがありませんので、途中で車両が止まった場合のみ写真撮影(静止画)をしています。

 

①未加工のクモハ313-2300の単車では、6V印加で問題なく登坂しました。

 

②クハ312を連結した所定の2両編成(クモハ313が先頭側)では、勾配の途中で空転により停車してしまいました。(勾配開始点から510mmまで進む)

 

未加工の2両編成の状態で、供給電圧を6Vから上げてみます。

③7V印加でも、6V印加とほぼ同位置で空転により停車。(写真省略)

④8V~11V印加(1V刻み)では、空転しながらも何とか登りました。

⑤12V印加まで上げることで、空転せずに一気に登り切りましたが、ジェットコースター並みの速度となり非実用的です。以上から、6V印加で以降の比較をすることにしました。

 

ここから車両に加工を施します。動力台車の車輪をゴムタイヤ付き車輪に交換してみます。

モーターカバーは、後方にスライドすると外すことができます。

 

動力台車の側面上部の隙間にマイナスドライバーを差し込み、動力台車のロックを解除します。

 

動力台車が外れました。ロック機構は、台車上部で弧を描いてせり出した部分が、動力ユニットで灰色で横長に見えているスリットに勘合しており、スリットのある個所を外側に押し広げることでロックを解除しています。

 

動力台車は、写真の箇所にマイナスドライバーを差し込んでロックを解除することで、分解できます。

 

先般上京した際に、秋葉原の模型店で購入してきたASSYパーツ(→こちら)の「EC用タイヤ付ギヤ車輪銀短」(29-950-4)を2個使用します。

 

ゴムタイヤが対角線になるように装着してから、底蓋に相当する黒色のギヤユニットを差し込んで完了です。

 

分解と逆の手順で、動力台車を装着しました。

 

早速、登坂試験を再開します。

⑥6V印加で、スムーズに登り切りました。流石にゴムタイヤの威力です。

 

では、1軸だけゴムタイヤにした場合は、どうなのでしょうか?

第3軸のみをゴムタイヤ付にしました。(521系製品がこの構成とのこと)

 

⑦ゴムタイヤ1個では、6V印加で勾配の途中で空転により停車してしまいました。(勾配開始点から645mmまでと、未加工の510mmよりは改善)

 

車両重量が軽くて粘着力が不足している可能性もあるので、重量を確認してみました。

全軸駆動の3000番台では、65gです。

 

同様に、全軸駆動の2500番台中間車でも、65gでした。

 

2軸駆動の2300番台では、僅かに47gしかありません。

 

鉛製の薄板ウェイトを準備しました。1枚は平板、もう1枚は同じ物を折り重ねています。

 

平板のウェイトを車両の中央部分にテープで仮固定します。

 

平板ウェイトを装着して52gと、5g増加しました。

⑧ゴムタイヤ1個+平板ウェイトの6V印加で、登り切りました。

 

ウェイトを折り重ねて、動力台車の上部にだけ搭載してみます。

 

当然ですが、52gと平板の場合と変わりません。(パンタを上げて識別)

⑨ゴムタイヤ1個+折り重ねウェイトの6V印加でも、登り切りました。ただ、ウェイトの積み方によっては集電不良が発生することもあったので、平板ウェイトの方が間違いなさそう。

 

平板ウエイトと、折り重ねウェイトの両方を搭載(写真は撮り忘れ)した場合で、57gと全軸駆動車に近付けてみました。

⑩ゴムタイヤ1個+平板ウエイト+折り重ねウェイトの6V印加では、途中で一度止まって(息継ぎ状態)から、再び動き出して登りました。2軸駆動に10gのウエィトは過剰のようです。

 

 

⑪ここで、全く異なる2500番台の3両編成(中間車が全軸駆動の動力車)+300番台の増結2両編成(動力なし)の5両編成を走行させてみると、難なく登り切りました。(写真は途中で止めて撮影したもの)

 

これに見習って、2300番台にも増結してみます。

⑫ゴムタイヤ1個+平板ウエイト+折り重ねウェイトの2両に、2350番台化した増結2両編成(動力なし)を併結して6V印加すると、途中で空転して停車。(勾配開始点から635mmまで)

 

⑬ウェイトが過剰気味かと、平板ウェイトを外して6V印加でも、途中で空転して停車。(勾配開始点から665mmまでと、少し改善)

 

⑭折り重ねウェイトを外し、平板ウエイトを再取付して6V印加では、途中で空転して停車。(勾配開始点から475mmまでと劣化)

 

以上から、ゴムタイヤ1個の場合は、所定2両編成であっても登り切らず、ウェイト1個(5g)を追加することで登り切った。ウェイト2個(10g)にすると、息継ぎ状態となるのでウェイト2個は過剰。

動力なしの増結2両を併結すると、ウェイトの数によらず1タイヤでは登ることができなかった。そこでタイヤ2個に戻して、動力なしの増結2両を併結の可能性を確認します。

 

⑮タイヤ2個の所定編成に、2350番台化の増結2両編成(動力なし)を併結して6V印加で、スムーズに登り切りました。

この状態で、⑯平板ウェイトを追加、⑰折り重ねウェイトのみを追加しても、⑮のウェイトなしの状態と差異なし。

 

 

結論としては、ゴムタイヤ2個とすることで、動力なしの増結2両編成を併結した4両編成でも問題なく登り切ることができました。ゴムタイヤ2個としたことにより、前部の付随台車での集電が重要性を増すことから、前部の付随台車の浮き上がり防止を兼ねて、平板ウェイト1個を乗せておくことにしました。

 

今回の試験は、メーカー推奨の4%勾配よりもきつい約6%勾配での結論です。勾配の付け方を含めて、個々のレイアウトで最適な改善策を模索してみて下さい。今回使用した「ECタイヤ付ギヤ車輪」は販売店向けのメンテナンスパーツだそうですが、KATOのオンラインショップやASSYパーツの品揃いの良い模型店であれば入手可能です。都内に4店舗あるI模型店ならば、通販でも購入できます。鉛製の薄板ウェイト(片面に糊付き)は、美軌模型店(新潟市)から通販で購入しました。

なお、本記事を参考に加工される際は、自己責任でお願いいたします。

 

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