11/30(土)のダイヤ改正では、相鉄JRの直通運転開始により、特に新宿-武蔵小杉間は実質的な増発による利便性向上・混雑緩和の傾向が見られた。一方で埼京線(新宿以北)のダイヤについては、快速停車駅追加や武蔵浦和以北の減便など、改正前から様々な懸念が挙がっていた。
本記事では、今回のダイヤ改正で埼京線がどう変わったのかについて触れていく。快速停車駅追加・武蔵浦和以北減便についてはあえて直接触れない代わりに、プレスリリースの時点では判明していなかった新宿駅での変化という観点から説明してみたい。
観点1:新宿駅の埼京線ホーム運用変更
本ダイヤ改正において、地味ながらも大胆な変更が行われたのが、新宿駅のホーム運用である。
まず変わらない点として、埼京線・湘南新宿ラインの列車は「1番線は渋谷・大崎方面へ、4番線は池袋・赤羽・大宮方面へスルーする列車が使用」というのが、一部時間帯を除いた原則である。
大きく変わったのが2・3番線、というよりも埼京線の折り返しホームだ。
今回のダイヤ改正以前は、埼京線始発(大宮方面)は2・3番線の両方を活用していた。日中は概ね2・3番線を交互に使い、夕方の時間帯にはほぼ2番線のみを使用している時間帯もあった。
ところが今回のダイヤ改正により、朝ラッシュ終了以降・深夜までは、2番線を相鉄線方面の列車が折り返しホームとして占有するようになった。数多ある埼京線の新宿始発(大宮方面)は、朝ラッシュ時や深夜を除いて3番線のみを利用して折り返している。
メリット:発着ホームがわかりやすくなった
この運用方法にはメリットもある。渋谷・大崎方面に向かいたい人は1・2番線ホームに、池袋・赤羽・大宮方面に向かいたい人は3・4番線ホームに向かえば良い、という原則がほぼ終日成り立つようになったためだ。特に新宿から埼京線で板橋や武蔵浦和などに行きたい乗客にとっては、朝ラッシュ時や深夜時間帯を除けば1・2番線に向かうべき可能性をほぼ考慮しなくて良くなったのである。
デメリット1:埼京線折り返し列車のホーム滞在時間が短く、ホーム上が混雑する
一方、埼京線折り返しホームが3番線に固定されることによるデメリットも、大きく分けて2つ挙げられる。
まず、折り返し時間が短時間となったことだ。日中ダイヤを例にとると、ダイヤ改正前に2・3番線の両方を利用していた頃は、ほぼ全時間(60分中50分以上くらい)にわたって2・3番線のどちらかに始発列車が停車していた。つまり埼京線各駅停車を利用する乗客は、概ねどのタイミングでもあらかじめ車内に入ることができた。
しかしダイヤ改正後は、ほぼ10分毎の折り返しを全て3番線で捌いている。この時の折り返し時間は概ね4〜7分であり、ホーム上に埼京線大宮方面の列車がいないタイミングがある。今まで日中には着席狙い以外ではあまり発生しなかった「新宿始発の埼京線各駅停車」を待つ乗客が、より頻繁にホーム上に出現することになったのだ。折り返し列車の新宿到着が2分程度遅延しただけでも、その列は倍近く伸びてしまう。また一方で、4番線の先行の埼京線快速や湘南新宿ラインを待つ列も依然として存在する。平日日中なら乗客の絶対数がそこまで多くないかもしれないとはいえ、新宿駅3・4番線ホーム上がより混雑する仕組みにはなっている。
夕方時間帯は、この傾向がより顕著なものとなる。依然として3番線のみを約10分毎に各駅停車が折り返すため、3番線側に始発列車待ちの列が形成される時間は少なくとも2〜3分程度発生する。さらに次の始発列車の着席を狙う列も発生するかもしれない。その一方で、4番線を新木場始発の埼京線通勤快速・各駅停車、また湘南新宿ラインという3種類の列車が通り過ぎていく。この3種類は乗客の目的地によって乗車できるかどうかも変わるため、列車が来ても全ての乗客が乗車していくとも限らない。以前の夕方時間帯は埼京線2番線折り返しが主流でまた一部列車が3番線をスルーしていたのと比べても、3・4番線ホームの混雑激化は必至となってしまった。
(2020/1/7追記)
実際の混雑激化を受けてか、年明け1/6(月)より17時台以降に限って始発ホーム2・3番線の運用を入れ替える措置が取られた。詳しくはこちらの記事をご参照いただきたい。
デメリット2:イレギュラーの発生に弱い
デメリットのもう一要素は、埼京線に輸送障害が発生した時の問題である。以前は1・4番線を湘南新宿ラインのスルー用に確保していたとしても、2・3番線のうち空いてる方に埼京線の列車を入れることができた。しかし今回のダイヤ改正で2番線を相鉄方面の列車の折り返しに使用、また確保する必要が発生したため、埼京線は基本的に3番線のみを使って折り返さなくてはいけなくなった。ホームを異なる複数種類の列車が占有するようになったため、柔軟な発車番線変更を行いづらくなった。
またSNS等で確認した情報によると、埼京線で30分規模の遅延が発生した12/2に、埼京線の列車が(新南改札以外から非常に遠い)6番線に到着したというケースがあったらしい。5・6番線に緊急入線することは湘南新宿ラインを含め稀にあるが、本件の直接の原因かは不明としても、2番線を埋めることにより5・6番線入線の可能性が高くなったのは間違い無いだろう。(逆に、埼京線で先に2・3番線に埋めてしまった上で相鉄線からの列車が5・6線に入線する、というケースも考えられないわけでは無いが、実際にそのような運用がなされるかは不明である。)
観点2:「新宿始発」の通勤快速が大幅減!?
また、今回のダイヤ改正では、平日夕ラッシュ時のダイヤもよりしっかりとパターン化された。埼京線下り列車は新宿を概ね5分おきに出発するが、約20分サイクルの中で「新木場発通勤快速1本、新木場始発各駅停車1本、新宿始発各駅停車2本」という比率である。
新宿始発列車のホームがほぼ3番線に固定化されたのは先述の通りだが、ある意味それ以上に大きな変化がある。新宿始発の通勤快速川越行きが夕ラッシュ時に8本(20〜22時台に7本+17時台に1本)あったのだが、これが大幅に削減され、22:44発の1本のみが残ることになった。
メリット:渋谷以南から遠方への帰宅は便利に
通勤快速川越行きが原則として新木場始発になったのは、渋谷以南から埼京線武蔵浦和以北(特に川越線内)に向かう乗客にとってはかなり便利になったと言える。以前は20〜22時台頃は川越行きが来てもほとんどが各駅停車で、新宿始発の通勤快速川越行きに途中で抜かれる列車も多かった。しかし現在は、りんかい線内や大崎・恵比寿・渋谷から通勤快速や川越線内を利用したい場合、最初から通勤快速川越行きを狙えば不要な乗り換えをせずに最速で目的地に到着できるようになった。
デメリット:新宿から通勤快速での着席を狙えなくなった
一方、通勤快速川越行きを「新宿から」「着席狙いで」利用していた乗客にとっては、着席による速達での帰宅が(ほぼ)できなくなってしまったという点においてかなり辛い改正となってしまった。新宿始発の通勤快速を頼りにしていた乗客は、川越線内まで利用する乗客や、武蔵浦和や大宮で乗り換えるのであまり遅いと困るがなるべく座りたい乗客であると考えられる。またそのような乗客は、埼京線全体の中で無視できるほど少ないとも思えない*1。そのような乗客にとって、代替手段が(始発だけど遅い各駅停車ぐらいしか)無くなってしまった。
なお川越線方面ということで言うと、各駅停車の川越行き自体も21時台以降を中心に若干減便されており、それでも新宿始発のものを中心に1時間に1本程度存在はするが、途中駅で通勤快速川越行きに追い抜かれるものがほとんどである。
1時間に1本程度でも新宿始発の通勤快速が残れば…と思えなくも無いが、その通勤快速狙いで乗客が非常に集中しそうなのと、せっかく整えたパターンが崩れがちになるのは難点である。既に3番線で各駅停車が10分毎に折り返しを行なっており、イレギュラーで再設定しようにも難しそうだ。2番線が相鉄線直通列車の折り返し用となった影響は、ここにも現れているのかもしれない。(というより、2番線が使えないことを前提にした上でのダイヤ設計のような気もする。)
まとめ
以上、埼京線のダイヤ改正について、新宿駅視点での分析を行った。
全体として新宿駅3・4番ホーム上(特に池袋方面)に列車待ちの乗客が滞留しやすいホーム運用・ダイヤになっている。実際に(平日・土休日問わず)夕方以降の時間帯にホームを利用したり見渡した感触としては、ダイヤ改正以前よりも混雑し、ホーム池袋寄りの移動はかなり困難になったように思える。一方で1・2番線は、埼京線始発の代わりに入線するようになった相鉄線直通列車が比較的空いてることもあってか、ホーム上も混雑が緩和された印象がある。決して空いているとも限らないし列車のタイミングにもよるのでオススメとまでは言わないが、ホーム上の移動が必要な時には3・4番線よりも1・2番線を経由した方がスムーズに移動できるだろう。
また特に、新宿⇔大宮・川越線内を利用する乗客にとっては「快速の停車駅増による所要時間増・混雑増」「帰宅時の通勤快速着席チャンス大幅減」などと多くの時間帯にわたって不便を強いられることになってしまった。結果として不満の声が大きく聞こえてきてしまうのもやむを得ないだろう。
今後の展望
何かしら前向きな対案、あるいは既に計画されているかもしれない案としては、相鉄線直通列車の埼京線方面への延長・直通運転が挙げられる。新宿折り返しが基本のところを池袋や赤羽まで延長させられれば、2番線を再び埼京線用に空けられることで3・4番線の混雑を再び緩和させられたり、また新宿-赤羽間の単純増発により列車やホーム上の混雑も緩和できる。あるいは新宿始発の埼京線を相鉄線直通列車とすることで、新宿での折り返し本数自体を減らし、折り返しに余裕を持たせることができる。しかしいずれの場合も遅延の影響を受けやすい、ダイヤ回復が困難になる、新宿始発が(相鉄、また単純増発でなければ埼京線方面も)減る、今回のダイヤ改正でせっかく生じたメリットの部分が戻ってしまう、など、最終的なダイヤ次第で新たに発生しうるデメリットもいくつか考えられ、目玉となる変更以外でのバランスも問われる。
今回のダイヤ改正は、便利になった利用パターン・不便になった利用パターンの差が特に顕著であると言える。相鉄線直通列車が設定されるというきっかけもあり、埼京線全体としてはシンプルな運用・パターンに整理され、実はメリットになっている部分も多い一方、減便となった区間もあり不便になるパターンではその落差が激しかった。すぐにダイヤが大きく変更になることは無いかもしれないが、まずは春のダイヤ改正でどのような調整が入るのかを見守りたい。
*1:参考として平成28年度調査の大都市交通センサス調査結果より「駅別発着・駅間通過人員表」を参照すると、埼京線下り(終日)で新宿駅乗車は15万人(新宿発時点での通過人員合計は24万人)。池袋+赤羽からの乗車人数合計も15万人程度、大宮到着時10万人、川越線大宮発車時6万人などとある。他のデータを用いてより詳細な推計をすることもできるが、埼京線内途中駅での乗降も加味すると、通勤快速を使いたいであろう「新宿から埼京線に乗車する乗客のうち、大宮または川越線方面まで乗車する乗客」「大宮または川越線方面まで乗車する乗客のうち、新宿から乗車する乗客」の比率は、いずれも大雑把に20〜30%程度であると思われる。