宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」
六、銀河ステーションより。
するとどこかで、不思議な声が、銀河ステーション、銀河ステーションという声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって、まるで億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、空中に沈めたという具合、またダイヤモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、目の前がさあっと明るくなって、ジョバンニは、思わず何べんも眼を擦ってしまいました。
ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。
「そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか。」
そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀色の空のすゝきが、まるでいちめんに、風にきらきら、ゆれてうごいて、波を立てているのでした。
撮影地:磐越西線「日出谷駅」、撮影日:2019年12月1日
出典:偕成社刊・宮沢賢治童話傑作選「銀河鉄道の夜」
底本:筑摩書房刊・新修宮沢賢治全集「銀河鉄道の夜」