【2019年10月】列車とバスを乗り継いで、西美濃 谷汲山の旅

暑さが残る10月最初の土曜日、岐阜県西美濃、西国第三十三満願霊場「谷汲山華厳寺」に列車とバスを使って訪れました。従前の「揖斐川町コミュニティバス」(9月30日限り廃止)に代わり、2019年10月1日運行開始となった「揖斐川町ふれあいバス 」の様子についてお伝えするとともに、廃線久しい名鉄谷汲線の思い出を巡ります。

基本情報

概要

谷汲山への玄関口となる鉄道駅は、樽見鉄道の谷汲口駅または養老鉄道の揖斐駅。ここからバスに乗り継ぐことになる。

両駅からは、2019年10月1日運行開始の定期路線バス「揖斐川町ふれあいバス 」(土日祝日)またはデマンド交通「揖斐川町はなももバス」(平日)を利用する。

土日祝日

土日祝日運行の「揖斐川町ふれあいバス 」は、樽見鉄道谷汲口駅から4便/日、養老鉄道揖斐駅から2.5便/日ある。このバスは2019年10月現在、実証実験として試験的に運行されているので運賃は無料である。時刻表は次の通り。

表1 大垣駅→谷汲山 列車・バス乗り継ぎ時刻表 2019年10月現在

  鉄道 樽見 養老 樽見 養老 樽見 樽見
大垣駅 鉄道発 9:11 10:10 10:40 11:45 12:08 13:35
揖斐駅 鉄道着 ll 10:34 ll 12:09 ll ll
バス発 ll 10:40 ll 12:35 ll ll
谷汲口駅 鉄道着 9:51 ll 11:25 ll 12:50 14:20
バス発 10:00 ll 11:35 ll 12:52 14:30
谷汲山 バス着 10:08 11:06 11:43 13:01 13:00 14:38

*揖斐駅発の便は、横蔵線横蔵行き*途中駅・停留所の表示は省略

表2 谷汲山→大垣駅 列車・バス乗り継ぎ時刻表 2019年10月現在

  鉄道 養老 樽見 養老 樽見 樽見 養老 樽見
谷汲山 バス発 7:58 10:40 11:47 12:07 13:35 14:40 15:06
谷汲口駅 バス着 ll 10:48 ll 12:15 13:43 ll 15:14
鉄道発 ll 10:53 ll 12:19 13:46 ll 15:23
揖斐駅 バス着 8:24 ll 12:13 ll ll 15:06 ll
鉄道発 8:34 ll 12:25 ll ll 15:15 ll
大垣駅 鉄道着 9:01 11:38 12:50 13:06 14:34 15:40 16:06

*揖斐駅行きの便は、横蔵線横蔵発*途中駅・停留所の表示は省略注)
・樽見:樽見鉄道(大垣-谷汲口間 運賃:大人680円・小児340円)
・養老:養老鉄道(大垣-揖斐間 運賃:大人420円・小児210円)

平日

平日は、定期路線バス「揖斐川町ふれあいバス 」は主に朝夕のみ運行。日中はデマンド交通の「揖斐川町はなももバス」が運行される。運賃はいずれも1乗車300円(小学生、障がい者、運転免許証自主返納者は半額、乳幼児は無料)。

デマンド交通「揖斐川町はなももバス」の概要は次の通り。

●運行時間帯
平日の7時30分~18時
(はなももバス停留所出発時間~はなももバス停留所到着時間)

●予約受付
乗車希望日時の1週間前から当日の1時間前までに電話
月曜日~金曜日 午前7時30分~午後5時
(土・日・祝日および年末年始を除く)
専用ダイヤル 0585-22-1131

旅行記

樽見鉄道に乗車

旅の起点は岐阜県大垣駅。名古屋から東海道本線の新快速に乗り継いで、昼12時少し前に到着した。

大垣駅

今回は、ここ大垣駅から、往路は樽見鉄道樽見線で谷汲口駅まで行き「揖斐川町はなももバス」に乗り継いで谷汲山に。帰路は同バスで養老鉄道揖斐駅まで出る、という行程とした。ちょうどぐるっと一周する形だ。

今月から運行形態が変わった谷汲山へのバス。念のため駅構内にある「西美濃観光案内所」で情報収集。手製のアクセス時刻表を頂戴した。

西美濃観光案内所

次の12:08発樽見行に乗車すると、谷汲口駅にて2分の接続でバスに乗り継ぎができる。谷汲山までのトータル所要時間は53分。この便が最短の乗り継ぎパターンである。

樽見鉄道は、1984年の旧国鉄樽見線転換時に発足した第三セクター鉄道会社。転換当時はセメント貨物輸送がメインであった経緯から、他の”国鉄転換三セク”とは違い、民間の出資比率が非常に高くなっているのが特徴である。

この大垣駅はJR東海と樽見鉄道の共同使用駅となっている。両社の共用券売機が1台設置されており、交通系IC乗車券で樽見鉄道の乗車券も購入可能。

券売機
ICカードで購入した乗車券

早速入場する。もちろん磁気化券なので自動改札機を利用できる。改札の上部にあるLED発車標は東海道線のみであり、樽見鉄道の発車時刻・乗り場は、改札口脇の時刻表にて確認する。

改札口
樽見鉄道時刻表

樽見鉄道乗り場には同社の駅長事務室がある。JR線からの乗り換え客は、ここで乗車券を購入することになる。

樽見鉄道駅長事務室

窓口付近には、谷汲山行バスの詳しい案内が掲示されていた。バスの運行主体である揖斐川町役場が作成したのであろうか。

谷汲山行バスの案内掲示

6番線には既に樽見行が停車していた。1両編成のハイモ330-700形気動車。同社最新型の車両である。”ハイモ”とは珍しい形式記号だが、”ハイスピードモーターカー”の略称であるとのこと。

ハイモ330-700

発車直前の駆け込み旅客がいたため、やや遅れて12:09発車。乗客数は30人弱、時間帯にしては思ったより多い印象。

しばらくして揖斐川に架かる長い橋を渡る。この「揖斐川橋梁」は、国鉄樽見線開業時の1956年に建設されたが、一部のトラスは御殿場線で使用されていた1900年代初期に製造されたものが転用されている。このような古い長大橋梁の維持管理は多額のコストと手間がかかり大変であろう。

途中のモレラ岐阜駅で、半数以上の乗客が下車していった。駅のすぐそばには巨大なショッピングセンター「モレラ岐阜」がある。その買い物客の利用がメインの様子。

モレラ岐阜駅

列車はのどかな田園風景の中を走っていく。線路脇には赤いヒガンバナが咲き誇っている。

モレラ岐阜-糸貫間

線路の状態はそれほど悪くはないようであるが、設備の老朽化が目立つ。枕木も所々コンクリート製の「PCマクラギ」に交換されているが、状態の良くない木製枕木も散見された。踏切は警報機、遮断機が無い「第四種踏切」が多く、踏切道の状態も劣化している箇所がある。

列車は同社の中枢駅、本巣駅に到着。車庫が併設されており駅構内も広い。2006年まではセメント輸送の貨物取扱駅であった。

進路表示機がある本巣駅下り場内信号機
本巣駅到着

ここで運転士交代のため4分停車ののち、12:40定時発車。貨物取扱の名残りがある構内を後にする。

本巣駅を後にする

織部駅を過ぎると、次第に谷が狭くなってくる。ここから線路は揖斐川の支流、根尾川に沿って走る。美しい車窓が広がり、観光路線としての魅力も十分。

根尾川の流れ
織部-木知原間

この根尾川は鮎漁が盛んな所のようだ。沿線には鮎料理店が点在する。

木知原駅発車

谷汲口駅の手前で根尾川を渡る。やや錆が目立つ立派なトラス橋は、東海道本線木曽川橋梁から転用されたもの。

根尾川を渡る

12:50、バス乗り換え駅の谷汲口駅に到着。ホーム1面1線の小さな駅だ。構内には古い客車が保存されている。

谷汲口駅

谷汲口駅からバスに乗車

バスへの乗り継ぎ時間は2分しかないので、ゆっくり駅を散策する余裕は無い。急いで駅前バス乗り場に向かう。

駅舎の目の前には揖斐川町のマークが入ったトヨタハイエース”バス”が停車していた。白ナンバーの自家用自動車であるが、有償運送車両の指定を受けている。

揖斐川町ふれあいバス谷汲山行

バス停ポールは新しいものが設置されていた。左が定期路線バス「揖斐川町ふれあいバス」、右がデマンドバス「揖斐川町はなももバス」のもの。予約方法等がわかりやすく表示されている。

バス停ポール

12:52定刻に発車。乗客は筆者を入れて2名。運行は地元のタクシー会社「揖斐タクシー」に委託されている。

谷汲口駅を発車

12:59、ほぼ定刻通りに谷汲山停留所に到着した。停留所はコミュニティバス時代と同じ、仁王門から700mほど手前の駐車場にある。

谷汲山に到着
バス乗降場

一角には立派な待合所がある。路線バス時刻表の掲示スペースがあるが、貼られているのは月に一度、18日のみ1便運行される「岐阜バス」岐阜駅行のみ。

待合所
岐阜駅行時刻表

待合所内には、”ふれあいバス”、”はなももバス”の路線図、時刻表等が掲示されている。

待合所内の掲示

しばらくすると、揖斐駅発横蔵行きの横蔵線バスがやってきた。13:01到着で、ほぼ定刻。この便はマイクロバスによる運行だが乗客はほとんど乗っていない。横蔵に向けすぐに発車していく。

横蔵行
発車

谷汲山華厳寺と旧谷汲駅

さて、帰路の揖斐駅行は14:40の発車。まだ1時間半以上時間があるので、お寺まで行ってみることにする。

ここには20年以上前に1度だけ訪れたことがある。まだ名鉄谷汲線の鉄路があった頃の話。当時の様子はほとんど忘れてしまったが、改めて参道を歩いてみると当時の記憶がうっすらと蘇ってきた。

参道

中間地点に観光案内所「谷汲観光プラザ」がある。バス停もあるが、ここに来るバスは平日のみ。

谷汲観光プラザ
観光プラザ前停留所

徒歩10分ほどで仁王門に到着。平日は”はなももバス”がここまで入ってくる。門の前には「西国第三十三番満願霊場」の石碑が立っている。巨大な草鞋(わらじ)が飾られているのが珍しい。

仁王門
本堂

仁王門の目の前にある「富岡屋」さんで昼食を頂く。秋のおすすめ、炭火で焼いた「しいたけ定食」が美味しかった。

しいたけ定食

バス停に戻るが、まだ時間があるので少し歩いた所にある旧名鉄谷汲線の谷汲駅跡に行ってみる。

徒歩5分ほどで到着。駅舎は廃線当時のままの姿。切符売場や改札口を見ると、まるで現役の駅舎であるかのよう。

駅舎
特急連絡表

構内では、ボランティアの方々による保存車両の清掃作業が行われていた。10月20日の「赤い電車まつり」に備えてのことだそうだ。きれいに洗浄され、赤い電車も嬉しそうな感じ。

洗浄中のモ755
名車モ510形514号

構内は線路が残されているが、起点(黒野)方に少し行くと途切れてしまっている。もう二度と列車がやってくることは無い。

起点方
My beautiful picture
My beautiful picture

待合室には数々の記念品が展示されている。廃線後、現在の保存車両が搬入された時の喜びの様子を写した写真が、まるで新線の開業を祝っているかのようにも見える。

展示物

バス停に戻る。まだ少し時間があったので、バス停脇にある菓子店「谷汲あられの里」さんに寄ってみる。名物どら焼きを頂きながら、店員さんに少し話を伺う。

名物どら焼きを頂く

今日は土曜日なので人通りも少ないが、日曜日は参道が自動車乗り入れ禁止になるので歩く人も多くなるとのこと。

訪れる参拝客は、やはり西国三十三所巡りをする関西方面の方が中心。観光バスでの団体客が多いが、路線バスで訪れる人も少なからずいるそうだ。

「谷汲あられの里」店舗

揖斐駅までバスに乗車

バスの発車時刻となったのでバス停に戻る。待合所にはバスを待つ乗客が2名いる。地元の人であろう。

14:35に谷汲口駅からの便が到着。続いて14:40定刻に横蔵発揖斐駅行のバスが到着した。バス同士の接続を意識したダイヤなのだろうか。

揖斐駅行

2名下車し、筆者を含めて3名が乗車。通しの乗客が2名いるので、都合5名の乗客数となる。

10人乗りのハイエースだが、旅客座席は後部8席なので”乗車率”は高い。

定刻よりやや遅れて発車。土日祝日ダイヤ初日なので、運転手もやや慣れない様子。所々で後続の一般車に道を譲りながらゆっくりと走る。

揖斐駅に向かう

バスは小さな峠のトンネルを抜けると、揖斐川町の中心部へと入っていく。

旧名鉄揖斐線の本揖斐駅跡を経由する。線路は完全に取り払われ道路敷になってしまっている。現在の本揖斐バス停は、かつて駅舎があった場所から少し離れたロータリーの中にある。

本揖斐停留所

バスは町役場を経由していく。役場内の駐車場には、”ふれあいバス”、”はなももバス”用の車両が何台か駐車されており、バスの”車庫”となっている。

揖斐川を渡り、町の中心部から少し外れた所にある養老鉄道揖斐駅に向かう。

揖斐川

15:04、定刻より少し早く終点の揖斐駅に到着した。

揖斐駅到着
バス乗り場

感想

整備される道路網と、クルマ社会に適合した大規模小売店。その一方、設備が老朽化する地方鉄道とジリ貧状態の路線バス。

今回この地域を巡ってみて、地方の街づくりと交通の現状が、正に日本の縮図を見るようであった。

2013年に施行された「交通政策基本法」。ここで謳われている理念が形骸化してはいないか。事業者も、それを支える地方自治体も、”お金”の面でも”人”の面でも限界に直面している今、目の前の課題に取り組むのが精一杯で大局的な観点から交通を考える”余裕”が無いのが現状。これを変えるためには、国が責任を持って交通政策をリードすべきであると思う。

そのためにも、我々市民も、老若男女誰もが”移動する権利”を享受でき、未来に”持続的な”交通の有り方について、真剣に考え議論していくことが大切であろう。地方公共交通の灯りが消えてしまう前に。

関連リンク

樽見鉄道

揖斐川町役場

鉄道コム

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