不可解な事業評価(2) | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
この大津線の活性化策を考えることが当ブログの目的です。
そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。

「福岡都市圏における公共交通機関に関する調査」の資料では、西鉄貝塚線と地下鉄の直通列車が中洲川端折り返しの場合の初期投資額が約220億円、天神折り返しの場合が約260億円とされています。

 

わずか40億円で天神にホームを増設できるのかは疑問ですが、西新ないし姪浜の折り返し線を用いればこの投資自体が不要なので、吟味するには及びません。

 

当資料によれば、中洲川端折り返しのケースでは増客効果が1日1,300人、増収効果(開業後30年平均)が年2.8億円、運営経費の増加が2.9億円、更新経費が年0.3億円で、年0.4億円の赤字となり費用対効果は0.3に留まるとのことです。

 

一方、天神折り返しのケースでは増客効果が1日2,100人、増収効果が年4.1億円、運営経費の増加が3.6億円、更新経費が年0.4億円で、年0.1億円の黒字で開業30年後に累積赤字を解消できる見込みです。ただ、費用対効果は0.6で、国庫補助の採択基準となる1を超えないため事業化は厳しいとの結論に至っています。

 

しかし、天神へのホーム増設を行わなければ少なくとも40億円を節減できます。また、当初は50億円だったはずの車両整備費が、この資料ではなぜか70億円に増えており、これを元に戻せば初期投資を200億円に抑えることができます。

 

増収効果を年4.1億円、運営経費の増加を2.9億円、更新経費を年0.3億円で計算すれば年0.9億円の黒字となり、これにさらなる増客増収策や費用節減を盛り込めば、事業化は十分可能であるはずです。

 

当資料では、平成26 年度の発着実績を元に推計した平成27 年度の数値を用いて、利便性の問題が検証されています。それによると、西鉄貝塚線から天神までの直通運転を行った場合、片道で1日あたり5,230人が乗り換えなしの恩恵に預かる一方、箱崎線内の各駅から乗車して天神より西で下車する6,423人の客が必ず乗り換えなければならなくなるので、全体としては逆に不便になると指摘されています。

 

しかし、これはあくまでも3両編成が天神より西で営業運転を行わないという前提に立つものです。乗り換えの発生をそこまで問題視するのなら、乗車位置の案内を徹底するなどして、3両編成を空港線内で営業運転すれば済む話ではないでしょうか。

 

また、ここではどういうわけか、貝塚線直通時の「1日2,100人の増客効果」が評価に含まれていません。そもそもこの数値自体がかなり控えめですが、それすら無視するのは、もはや意図的に箱崎線と貝塚線の直通運転の実現を避けようとしているとしか思えません。

 

一般に鉄道の新規事業の需要予測は、実現を急ぐために甘くなりがちです。例えば、これまでの著作で再三取り上げてきた京阪の中之島線は、1,307億円の建設費を投じ、1日8万人の利用を見込んでいましたが、実際には約3万人に留まりました。京阪本線からの転移を除いた純増は約2万人に過ぎす、推定で年間約16億円の赤字です。

 

福岡市でも、建設費2,811億円を投じて2005(平成17)年に開業させた地下鉄3号線(七隈線)の開業時の需要を1日11万人と見込んでいましたが、実際には約44,000人という惨憺たる数字でした。

 

2016(平成28)年には約82,000人まで増えたものの、未だに当初の予測値には及ばず、累積赤字の解消は2069年になると言われています。にもかかわらず、さらに450億円をつぎ込んで路線の延長工事が進められています。

 

七隈線の需要をこれほど過大に見積もる一方で、それよりはるかにリスクの小さい箱崎線と貝塚線の直通運転を先送りするのは、明らかに優先順位が狂っています。この福岡市の姿勢には疑問を抱かずにはいられません。

 

貝塚線は年間約2億円の赤字を計上していると2009(平成21)年に福岡市議会内で報告されていますが、京阪大津線の同じ年の赤字額が約13億円なので、それに比べれば黒字転換の余地はずっと大きいのです。さらに、赤字が残る場合でも打つ手はありますが、その詳細は別の記事に譲ります。

 

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