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【コラム】京阪特急プレミアムカー◆400円で買う21分の至福の時

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京阪特急プレミアムカーの二人座席 鉄道コラム

4月のこと、宮城県在住の私は急遽帰省する必要に迫られ、午後からの便ですっ飛ぶように新幹線を乗り継ぎ、大阪・枚方市の実家に向かった。京都駅で新幹線を降りたのはもう19時頃。そこから乗り継いで丹波橋駅に行き、京阪特急(8000系)に乗り込んだ。約10年ぶりの利用である。小型とはいえキャリーケースを牽いていた私にとって、席を探すのは至難の業だった。ポツンぽつんと席は空いているのだが、荷棚が空いていないのだ。あきらめて立ったまま扉付近で窓の外を眺め、降車する樟葉駅までの時を過ごした。

【京阪特急HMの鳩マーク】はこちら

さて、数日かけてすべての用事を終えて、かなり疲れ気味で帰りの列車に乗る時が来た。帰りは東京行きの夜行列車サンライズ瀬戸に乗ることにしていたため、京都ではなく大阪駅に向かうべく「樟葉~京橋」で再び特急に乗ろうと考えた。そこであることにふと気づいた。「このままいくと先日丹波橋から樟葉まで乗ってきたあの特急だ。」

京阪特急プレミアムカーのチケット

そうだ。この列車の混雑状況を私はすでに経験して知っているじゃないか。かなり疲れているこの時こそプレミアムカーを試してみるいい機会だ!と思い立ち、400円で21分の優雅な時間を買ってみることにした。私が乗るのは20:15に樟葉駅を出発し、20:36に京橋駅に着く「特急1909号」、座席は一人掛けの11Cというシートである。

樟葉駅改札の右端にある窓口で駅員さんに申し込み、提示された空席表の中から自分の希望の席を選ぶことができる。私は気兼ねなくリクライニングができるよう、後ろが空席となっているところを選んだ。この時は幸いなことに前も空席という状況だった。

 

優雅な時間の演出に酔いしれる

樟葉駅のホームに特急が入線するのが見えてきた。8号車、7号車と目の前を通り過ぎ、特別なカラーリングの6号車・プレミアムカーが目の前に停車した。ゴールドで大きく縁どられた乗降口・半月型の窓がついた印象的な扉が開く。外観の麗しさに胸の高鳴りを感じる。

京阪特急プレミアムカーのアテンダントさん

扉が開くと専属アテンダントさんが気品を感じる笑顔で迎え、とても自然な雰囲気でキャリーケースを預かることを提案してくださった。そのあまりにも自然な接し方に、何のためらいもなく「ありがとう」と荷物を預けることにした。

 

さて、私が日常的に京阪電車を利用していたのはもう30年近く前のことになるが、「生活路線」としてすし詰め状態になるのは当たり前で、どんなに荷物が多くてもその中で降車駅に着くまでは辛抱するのが当然のことだった。高校の部活の合宿の帰り、日焼けして皮がむけた肩に食い込むようなバッグのひもによる激痛に耐えながら急行に乗っていた日のことや吊革につかまって立ったまま眠り込んだあの日の急行のことをふと思い出した。そうだ、当時は京阪間の途中駅はすべて特急が通過していたため、私にとっては「京阪の特急に乗る」ということ自体が特別なことだった。実際、あの頃の淀屋橋行き急行はここ樟葉で特急が追い越していくのを待つダイヤだったからより一層「特急は高嶺の花」という印象が強かったように思う。

京阪樟葉駅発車表示板

ところが今こうしてその特急に樟葉駅から乗り、大きな荷物からも解放されるのを経験している。長い時を経て実現した状況にこの上ない幸せを感じ、乗った瞬間にもう酔いしれてしまう自分がいた。後で知ったことだが、プレミアムカーの専属アテンダント業務はANAビジネスソリューション株式会社に委託しているものだという。ローマは一日にして成らずと言うが、これまで築き上げられてきた一流の接客を取り入れてブランディングするという方法は非常に賢明で確かなものだと言える。少なくとも私個人は「さすがだ!」と納得する思いで、21分400円の価値をすでに認めていた。

 

車両のクオリティーの高さ

《カラーコーディネート》

京阪特急プレミアムカーのデッキ一歩足を踏み入れると、外観の深みある鮮やかさとは打って変わって漆黒の濃淡とゴールドのエンブレムで一層落ち着きのある雰囲気に包まれていた。客室通路に向かうと左右に黒みがかった透明のパーテイションボードがあり、「ここから特別な空間」という印象を与えてくれる。

 

そして、室内に入ると座席の背面、天井、ブラインド、座席足元のカーペットともベージュ系で明るく自然な温かい色を多用し、黒・ゴールドとともに上品なハーモニーとなっている。個人的好みかもしれないが、プレミアムな車両はこうした落ち着きある雰囲気が素敵だと感じるし、利用してみて確かにゆったりとした気持ちを味わうことができた。

 

《座席配置と空間》

京阪特急プレミアムカーの二人座席前後の座席間隔は1020mmということで、一般的なJRのグリーン車と比較すると実はやや狭い。また、フットレストなどが付いているわけでもない。とはいえ、このあたりは“過剰な設備”にならないよう、よく考えられているのだろう。先述の通り、大きな荷物はアテンダントさんがすぐに預かってくれるので荷物が足元を支配することはない。また、最長でも1時間に満たない設定が基本なのだからフットレストよりもシートそのものの質とサービスを前面に出すという選択なのだろう。確かにこの方がすっきりしていて視覚的に広く感じる。

京阪特急プレミアムカーの一人座席

シート幅については確かに広い。数値上、座面については従来と比較して30mm広がっただけなのだが、アームレストがしっかりとしたものになっていることが余裕を生み出し、実質的な自分のスペースはもっと広がっている。これはあらためて言うまでもなく2+1列のシート配列が生み出した余裕だ。

 

実際に座って過ごしてみて、身長170cmほどの私にとっては十分すぎる広さを感じた。もっとも、二人掛けの座席で見知らぬ人と隣り合わせた場合の窓側だったら「あと少し広い方がいい」と感じることはあるかもしれない。

 

《シートそのもののクオリティー》

プレミアムカーのヘッドレスト 広さは確かにゆったり感を作り出す直接的な方法ではあるが、私がもっともありがたく感じたのがしっかりとしたホールド感のヘッドレストだ。左右とも大きく突き出して包み込むようになっており、最大20度のリクライニングとともに、脱力した身体をソフトに支えてくれる。もし自分の降車駅が終点であれば間違いなく瞼を閉じて快眠に落ちていたと確信する。

 

車窓を見ながらあの頃を思う

伝統の鳩マーク樟葉駅を出発した特急は枚方市駅に停車し、ホーム上にはたくさんの列車待ちの人たちの姿が見える。「あ、停車駅だけ見たらここまではあの頃の急行と同じだ」。そしてたくさんの人が待っている様子に、ゆったりとリラックスしている自分のことを不思議に感じ、大きく進歩した京阪電車に大きな喜びを感じた。

 

もちろん、あの頃と同じように吊革につかまりながら眠り込む自分を想像して「それも悪くないな」と思ったりするし、お年寄りに席を譲るといった美しい光景はこれからも失われてほしくないとも思う。しかし、本当に疲れているときに確実に座れてゆったりとした時を過ごせる席があるというのはやはり喜ばしいことだと思う。

 

付加的なサービスも体験する

プレミアムカーのブランケット こういう車両に乗って、「元を取らないと!」という考え方はしたくないが、設けられているサービスメニューを体験して伝えることはぜひ行いたい。そんな思いで「ブランケット貸し出しサービス(無料)」を利用してみた。

 

アテンダントさんに会釈して合図し、依頼すると鮮やかな赤のブランケットを持ってきてくださった。やや薄手ではあるが、室内は基本的に空調が適度に設定されているのだから余程の冷え性でもない限りこれで十分だ。中央部分には編み方の変化によって三ツ星と鳩のマーク、そしてPREMIUM CARの文字が、色を使わずに表現されている。余談だが、このブランケットはプレミアムカー関連のグッズの一環として販売されている。

別のありがたいサービスとして述べたいのはやはりAC100Vのコンセントだ。一つ一つの座席に設けられているので順番待ちなどなく使用することができる。スマホ、タブレット端末をはじめ、充電を必要とするものに囲まれている現代、これは本当にありがたい。若い人でも、スマホの充電目的でネットカフェに行くくらいならこの列車に乗ることもできるように思う。けっして高い出費とは思わないだろう。私自身、30%代だったバッテリー残量が60%代に回復して大いに安堵。わずか20分でもこれだけ回復するのだから大いに価値があると感じた。(もちろん使用する機種によって性能差はあることだろう)

 

Wi-fi さらにもう一つ挙げるなら、Free Wi-Fiのサービスもある。近年、大容量データ通信が普通になってきてはいるが、外国人旅行者などインターネットにつながることにありがたさを感じる人は確実にいることだろう。

 

21分間の終わりに・・・

 枚方市駅を出た後、最初の停車駅は私が降車する京橋駅。21分はあっという間に過ぎていった。席を立ち、通路を進むと最後の感動が待っていた。アテンダントさんが私のキャリーケースを準備してくださっていたのだ。プロの仕事とはいえ、40席ある乗客の荷物をすべて覚えているのだろうか。降車するタイミングを把握しているのだろうか。私はサービスの質の高さに再び驚き、感謝を述べてホームに降りた。

 

 疲れていたはずの私は晴れやかな気持ちで列車が去っていくのを見送った。それは見事にブランディングされたプレミアムカーの、トータルでの質の高さに感銘を受け、リラックスできたからだろう。「時代は変わったなあ」。そうつぶやいた後、変わっていないことが一つだけあるのをふと思い出した。「あ、トイレがなかったのだけはあの頃のまんまだ」。

 

時代を先取りして需要に応えてきた京阪電車だから、いつかトイレ付きの車両も作ってくれる日が来ることを期待したい。

 

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