なぜ停めない?岡崎公園前駅 | 京阪大津線の復興研究所

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読み:おかざきこうえんまえ

所在:愛知県岡崎市中岡崎町

開設:1923(大正12)年6月1日

1日乗降人員:3,807人(2015年)

隣駅:東岡崎(1.3km) ←→(1.4km)矢作橋

 

岡崎公園前は名鉄名古屋本線の駅です。当初は「西岡崎」と名乗っており、やや遅れて開業した隣駅の東岡崎と対をなす駅名でした。このことが示すように、東岡崎は国鉄(→JR)東海道本線の岡崎駅の東にある、という意味ではありません。

 

東海道本線の岡崎は東岡崎の3km以上南にあり、鉄道の黎明期によく見られたように住民が市街地への乗り入れを忌避したため、中心部から大きく外れています。その後、私鉄の愛知電気鉄道(名岐鉄道と並ぶ名鉄の母体)が市街地へ乗り入れ、西岡崎と東岡崎を設けたのです。

 

こうした経緯で東岡崎は岡崎市の中心駅としての地位を築き、現在も快速特急以下の全列車が停車します。一方、西岡崎改め岡崎公園前は、各停しか停まらないこともあって発展から取り残されていきました。

 

変化の兆しが見え始めたのは、1976(昭和51)年に国鉄岡多線が岡崎-新豊田間の旅客営業を行うようになってからです。この時、名鉄名古屋本線をまたぐ位置に中岡崎が開設されました。

 

名鉄も岡崎公園前を名古屋寄りに移設し、駅名は異なるものの中岡崎との乗り換えが容易になりました。その後、1988(昭和63)年に岡多線は第三セクターの愛知環状鉄道に移管され、同時に新豊田から瀬戸市を経てJR中央本線の高蔵寺まで延長されました。

 

ただ、宮脇俊三・原田勝正編著『JR・私鉄全線各駅停車』シリーズによれば、1990年代初頭の1日あたり乗降人員は、東岡崎の47,055人に対し、岡崎公園前は960人に過ぎませんでした。愛知環状鉄道の中岡崎は982人、岡崎は1,545人、JRの岡崎も18,312人に留まっており、東岡崎の優位は依然として揺るぎないものがありました。

 

しかし、21世紀を迎えて環境志向が高まると、愛知環状鉄道の三河豊田駅前に本社を置くトヨタ自動車が電車通勤を奨励し、その影響は岡崎市内にも及ぶようになりました。

 

愛知環状鉄道の沿線には本社以外にもトヨタの関連工場などが点在しているため、通勤客が顕著に増加しました。2015(平成27)年の1日あたり乗降人員は、岡崎公園前が3,807人、愛知環状鉄道の三河豊田が12,460人、中岡崎が3,344人、岡崎が9,634人、JRの岡崎が35,386人を数えます。

 

これに対して、名鉄の東岡崎は長期減少傾向が止まらず、2015年(平成27)には1日あたり37,960人と、JRの岡崎に肉薄されています。名鉄が名岐間でJRの攻勢に苦しんでいることは以前の記事で述べましたが、圧倒的に有利だったはずの岡崎市内でさえ苦境に陥っている事実は、重く受け止めなければなりません。

 

この状況を打開する最も簡単で効果的な方法は、岡崎公園前に優等列車を停めて愛知環状鉄道との連絡を強化することです。ただし、快速急行以下の列車は一部を除いて名古屋まで先着できないため、停めるなら快速特急と特急を停めることが前提となります。

 

現在でも、8月に行われる花火大会の日には優等列車が岡崎公園前に臨時停車しますが、ホームが6両分しかないため、8両で運転される優等列車は後ろ2両の扉が開きません。また、快速特急・特急の豊橋寄りに連結されている有料の特別車2両には乗車できません。

 

「中之郷駅」の記事で述べたように、ホーム長の不足を理由とした新規のドアカットは禁止されているはずなのですが、恐らくは臨時停車ということで例外的に認められているのでしょう。

 

恒久停車を行うためにはホームを8両分に延伸する必要がありますが、駅が築堤上にあるため対応は比較的容易です。加えて、優等列車停車駅にふさわしいように、エレベーターなどを整備することが求められます。

 

岡崎公園前に快速特急・特急を停めれば、名古屋から三河豊田までは乗り換え時間を含めても最短53分程度となります。JRで岡崎を経由した場合は、距離が長いこともあり1時間10分程度を要するので、名鉄の優位は明らかです。

 

利用可能本数はどちらも毎時4本で互角ですが、運賃の合計はJR経由の1,060円に対して名鉄経由は1,050円と有利です。

 

トヨタは名古屋駅前の高層ビルに営業部門を集約しており、本社のある三河豊田との間のビジネス利用は確実に存在します。さらに、三河豊田から中岡崎と神宮前で乗り換えて中部国際空港に出ることもできるので、通勤に限定されない需要が得られます。

 

もともと中京圏はトヨタの影響力の下、鉄道のシェアが近畿圏や首都圏に比べて低いのですが、そのトヨタの方針転換が鉄道の輸送拡大につながっているのは皮肉な話です。要するに主導権は握られたままなのですが、現実は現実として受け入れざるを得ません。

 

残る問題は名鉄が豊橋で抱える制約です。名鉄の名古屋本線は豊橋起点3.8kmの平井信号場までJRの飯田線と複線を共有している関係で、発着枠が毎時6本に制限され、かつ3番線しか使用できません。このため、豊橋の発着時刻を自由に変更できないのです。

 

よって、岡崎公園前を停車駅に加えることで生じる約1分の所要時間増は、スピードアップによって吸収するのが望ましいところです。以前の記事で述べたように最高速度を現在の120km/hから130km/hに向上させるのも一案ですが、もっと簡単な方法もあります。

 

それは、豊橋―平井信号場間の最高速度を85km/hから120km/hに引き上げることです。最高速度の制限はJRとの協定で決まっていることですが、同区間で並行する東海道本線と線形の差はなく、制限の根拠が不明確かつ不可解です。

 

発着枠のみならず速度まで縛るとは、もはや名鉄に対する嫌がらせとしか思えません。どうしても制限の撤廃が受け入れられないようなら、トヨタを交渉の席に招き、JR東海の首を縦に振らせるべきでしょう。

 

なお、岡崎公園前の12.0km名古屋寄りにある知立で名古屋本線と交差する三河線は、豊田市で愛知環状鉄道の新豊田に接続しています。名古屋駅から豊田市へはこれが鉄道の最短ルートであるため、三河線の複線化と高速化を進めてアクセスに役立てようとする動きが一部で見られます。

 

しかし、仮にそれが実現しても、列車密度の高い名古屋本線との直通列車をどれだけ設定できるかは不透明です。また、トヨタ本社前の三河豊田へは結局乗り換えが必要です。

 

やはり、名古屋・中部国際空港―三河豊田間の移動は岡崎公園前乗り換えが最適です。全列車停車に合わせて駅名を愛知環状鉄道と同じ中岡崎に改称し、将来的には東岡崎と並び立つ駅に育てることが望まれます。

 

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