先日,大阪の国立民族学博物館に行ってきました。
私は東京育ちなので千葉県佐倉にある国立歴史民俗博物館には何度か訪問歴があるのですが,海外の文化に興味を持ち始めてからは,大阪にある国立民族学博物館に行きたかったんですよね。
ありていに言えば,民俗学は日本の文化,民族学は世界の各民族の文化を対象とする学問なので(実際はもう少し複雑),たびたび海外に行くようになるにつれ,自然と民族学のほうに惹かれるようになったのです。
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太陽の塔で有名な万博記念公園の奥に博物館があります。
なかなか見ることのできない多言語併記の数です。
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かなり大きな建物で,世界各国の民族学や考古学の資料が100万点収蔵されているらしいです。1977年竣工で,設計は黒川紀章。
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博物館自体も凝ったつくり。中庭も怪しい設計で,その名も「未来の遺跡」。
未来から見れば,この博物館も遺跡なのではないかという思想のもとにデザインされたようです。

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常設展示は,1977年の開館から40年経過した2017年に一新され,古いものから新しいものまで織り交ぜて公開されています。
2階が広大な展示室となっており,オセアニア→アメリカ→ヨーロッパ→アフリカ→アジア→アイヌ→日本という順路になっています。
ここでは印象に残ったものを少しだけ紹介してみたいと思います。
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まずはオセアニアの盾。
すべて本物で,博物館の研究員さんらが現地で収集したもの。この時点で「なんだこの博物館は…」って圧倒されてました。
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テノチティトラン(メキシコシティ)で出土したアステカの隕石。これはさすがに複製ですが。
先月メキシコシティに行ったばかりなので,思わずテンション上がりました。まさか大阪でもアステカの遺物を見ることになるとは思いませんでしたね。
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こちらもメキシコから,骸骨人形。
死をも身近に意識するメキシコ人の死生観から生み出されたユーモア溢れる人形です。ただのハロウィーン飾りじゃないんですよ。
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ルーマニアのとある村の陽気な墓も,その独特な死生観の一端をわれわれに見せてくれます。
死んだらこんな墓に入れてほしいなと,少し思ってしまいます。
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アフリカの展示では,その民族史と切っても切れない植民地時代の記憶が,様々な切り口で示されます。
奴隷の鎖のような生々しいものから,アフリカ大陸土着の信仰と西洋文化の融合によって生み出されたものまで,多彩な展示物が飾られています。
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昨年大英博物館で見たロゼッタ・ストーンの複製。
某ポプテ◯ピックで言えば「もう見た」といった感じ
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アジアの展示では,タイの寺院がそのまま再現されていた一角が印象的。
仏教という宗教も,国が違えばこれだけ雰囲気が違うんですね。
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▲「全国セマウル運動指導者大会」
韓国の展示はそれだけで一つの区画になっており,朝鮮時代から戦前,戦後の経済発展から現代にいたるまで,食や衣装,宗教などありゆる文化にスポットを当てており,かなり見応えがあります。
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中国の展示では,チワン族の高床式住居をそのまま再現。
伝統的な暮らしと現代文明の融合が見られます。一階に家畜,二階に人間が住まい,人間が食べ残しを家畜に与え,家畜の糞から出るメタンガスでランプをつけ,火を灯す,合理的な生活を行っています。
とにかく目からウロコなんですが,チワン族の住居なんてこれから先の人生でも行くことはないと思います。博物館だからこそですね。
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勿論,このような展示物も忘れられてはいません。
これも中国の文化を知るうえで避けることはできないものです。
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国立民族学博物館には,その前身が台湾統治期に収集した台湾原住民に関する資料が今も保管されています。台湾原住民の生活が漢民族と同化していくなかで,博物館の役割がまさに果たされつつあります。
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こちらはウズベキスタンのドッピなど,中央アジアの帽子。
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ドッピ,私もサマルカンドのバザールで美人のお姉さんから値切って買ったんですよね。
ここの研究員さんたちも,そうやって世界の民芸品など色々な人類学的資料を買い集めて歩いたのでしょうか。血と汗の滲むような収集活動,そして科学的根拠に裏打ちされた公開展示・・・と考えると,博物館学というのは底知れず面白い学問に思えてきます。
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モンゴルの展示の目玉は,やはり実物のゲル(私もテレルジのゲルでモンゴル人が作る焼きそば食べたなあ)
ここに来るだけで,海外に行った気分になれる,それも奥深いディープな文化を知ることができる,すごい博物館でした。


最後に,日本の展示の前にアイヌ民族の展示があります。
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住居展示に加え,熊捕り,葬送などアイヌ民族の世界観を理解するうえで欠かせない展示物が数多く飾られています。
アイヌ民族は,かつて日本の人類学者によって差別的な研究の対象にされてきた過去があります。無断で墓を掘り起こし遺骨を持ち出すなど,反人権的な研究者もいました。この博物館には,そのような人類学の過ちをあらため,アイヌ民族への理解と共生に貢献するという新たな役割が付与されているようです。
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日本の展示の終わりには,沖縄の展示もあります。
おなじみシーサーから,香炉,ヒヌカン,石敢當にいたるまで,さすがと言うほかないボリュームです。
特に忘れてはならない,米軍統治下の沖縄にかんする収集物もあります。


一階に降りると,ミュージアムショップがあります。
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世界中で集めてきた民芸品がそのまま売られているわけですが,ロシアの「マトリョーシカ」など,すごい品揃えでした。
私は,博物館の展示でこんなに感動したのが記憶にある限りで初めてなので,思わず公式の分厚いガイド本を買いました。

東京にお住まいだと行ったことない方が多いと思いますが,よく海外に行く方や,民族文化に興味があるような方はぜひ行ってみてください。
(さすがに今回私は違いますが)このためだけに大阪へ行くのも無駄ではないと断言します。