『鉄道ジャーナル』2013年2月号に掲載されている鶴通孝「阪急梅田再発見」の記事は、同じ号の土屋武之「京阪神最新ライバル模様」とは異なり、「有害」な点は見当たりません。
しかし、言い換えればただそれだけであり、阪急の梅田駅がいかに広く、美しく、機能的であるかを延々と綴った、毒にも薬にもならない「無益」な提灯記事です。2012年3月号の「京阪間ライバル特急はいま」の記事で根拠のない阪急梅田衰退論を展開したことの埋め合わせをしているようにしか思えません。どうしてこう両極端になってしまうのでしょうか。
阪急の梅田を取り上げるのなら、「統計と現地調査」の記事で紹介した「乗り移り」の問題に象徴されるような、1967(昭和42)年の北側移設開始以来連綿と続く「他社線との乗り換えの不便さ」を指摘すべきなのです。旧駅は下り勾配の直後に国鉄のガードをくぐって頭端式ホームが広がる不利な線形であり、改修工事自体は避けられない状況でしたが、例えば国鉄のさらに上を越えて旧駅の真上に新駅を開設するという選択肢はなかったのでしょうか。
いずれにせよ、今となっては物理的に解決の仕様がない問題ですが、その緩和策を探ることは重要なテーマであるはずです。これは今の『鉄道ジャーナル』には荷が重いでしょう。
しかし、昔の『鉄道ジャーナル』がそういう気概を備えていたかと言えば、それも違います。「国鉄叩き」が『鉄道ジャーナル』のお家芸だったことは前にも述べましたが、正面から国鉄を批判した記事は必ずしも多くありません。国鉄への批判は、主に投稿欄の「タブレット」のコーナーで読者の意見を紹介するという形で示され、国鉄の回答もこれに対して行われるのが常でした。
つまり『鉄道ジャーナル』は、言わば読者を矢面に立たせることで「社会派」の体裁を取り繕っていたのですが、それならばさぞかし読者を大切にしてきたのだろうと思いきや、実態はむしろ逆なのです。
長続きしなかったのでご存じない方が多いと思われますが、かつての『鉄道ジャーナル』には、竹島紀元編集長が読者の要望を聞く「コンコース」というコーナーがありました。以下、長めになりますが、1995年11月号の「コンコース」の内容を紹介します。
Q:「かなり昔の『タブレット欄』に『特集テーマに沿った読者の投稿を載せてほしい』という趣旨の意見があったと記憶している。私も特集テーマに投稿したいと思うのだが、“発売日”イコール “次号の締切日”なので、次号予告を見てからでは物理的にほとんど不可能な状況。締切日の繰下げが困難なら次号予告の隣に『次々号予告』欄(簡潔な内容でよい)を併設してはどうだろうか?近ごろ投稿数の減少が気になる『タブレット』欄の活性化にも有効と思う」(東京都 / K H)
A:「本誌はごく一部の誌面(トピックス・ニュース・ワイドレンズ・タブレット欄など)を除いて“企画編集制”を実施、専門家・関係者とプロの取材者および編集部の記事と写真で誌面構成をしており、記事・写真は原則として募集していません。しかし、鉄道の利用者でありその改善と発展を心から望んでおられる多数のレールファンの声を広く紹介することは大切で、これまでも必要に応じて投稿記事(特に海外紀行)を掲載したり、一部の読者の方に執筆をお願いしていますが、今後はこれをさらに積極的に進めてゆきたいと思います。『次々号予告』などで企画内容を早めに発表することは数種の鉄道誌が鎬を削っている現状では企業上の問題もあり、残念ながらご希望に応えるのは無理です」
「なお、『タブレット』欄への投稿は特に減少していないと思います。読者数の増加から見れば伸び悩みの現象は認められますが、編集部では1人でも多くの関係者・読者に理解される説得力のあるご意見を待ち望んでおり、「量より質」(原文は傍点付き)への移行はむしろ喜ぶべきことだと受け止めているのですが…」(編集長)
この回答の前半を翻訳するなら、「編集は我々プロの仕事であり、タブレット欄などは記事の内にも入らないのだから、素人が余計な口を出すな」といったところでしょうか。それを丁重な表現で言い換えているだけであり、慇懃無礼とはまさにこのことです。自ら意見を募っておきながら、相手の言い分を全否定するのはどういうことでしょうか。編集のスケジュールまで心配してくれる優しい読者に対して、あまりに無下な態度です。
これに対して、ライバル誌である『鉄道ファン』は以前から「次々号予告」を行っています。投稿者のK H氏もそのことは重々ご存じだったと思われますが、「他誌で可能なことがなぜできないのか」という聞き方をすると話がこじれるに違いないと考え、敢えて言わなかったのでしょう。なぜ読者の側が気を遣わなければならないのでしょうか。
続いて、『タブレット』欄への投稿数を手元のバックナンバーで確認すると、以下のようになりました。
・85年3月号:142通
・86年3月号:132通
・87年4月号:150通
・88年4月号:182通
・88年9月号:177通
・89年9月号:117通
・89年10月号:104通
・90年7月号:112通
・91年12月号:89通
・92年2月号:105通
・92年9月号:92通
・92年11月号:92通
・93年1月号:93通
・93年2月号:90通
・93年4月号:66通
・93年6月号:90通
・94年2月号:82通
・94年5月号:66通
・94年11月号:48通
・94年12月号:64通
・95年7月号:61通
・95年8月号:98通
・95年11月号:55通
十年単位で見ると、明らかに減っています。K H氏もこうした客観的な事実を踏まえて指摘したに違いないのですが、対する回答は「特に減少していないと思います」という主観的な問題にすり替えられており、衰退の事実に背を向けています。さらには、投稿量が減ったことで質が上がったなどという理解不能な結論に至っています。
投稿数が多かった時代は「質より量」だったと言うのでしょうか。自らの体面を保つために過去にさかのぼって読者を貶めるとは、頭が高いにも程があります。
このように、当時の『鉄道ジャーナル』には読者とともに誌面を作っていくという謙虚な姿勢は微塵も感じられず、情報源としての役割が低下するに伴って読者が離れていったのは当然です。昨今は、ネット上でボイコット運動まで展開される始末です。こうした傾向は、ライバル誌の『鉄道ファン』『鉄道ピクトリアル』『鉄道ダイヤ情報』ではほぼ皆無です。
『鉄道ジャーナル』を「読者に愛されない雑誌」に仕立て上げたのは前編集長であり、その負の遺産を引き継いだ現編集長には同情します。もっとも、前編集長が存命であれば、現在の惨状も「部数は特に減少していないと思います」の一言で片づけるのかもしれません。
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