『鉄道ジャーナル』2013年2月号に掲載されている土屋武之「京阪神最新ライバル模様」の記事では、例によって乗車記録が淡々と綴られていますが、阪急京都線の河原町発梅田行き特急の先頭車両に乗ったことが明記されており、その点では2012年3月号の「京阪間ライバル特急はいま」より改善されています。ただし、内容面は大差ありません。
一年と経たないうちに同じようなテーマの記事を繰り返しているのは目をつむるとしても、件の特急の梅田到着時の描写が「やはり込んでいたのは先頭寄りの車両で、後ろ寄りから降りる客はグッと少なく、空席も多かっただろう」というのはいただけません。それが分かっているのなら、初めから混雑が偏りにくい中間寄りの車両に乗車すべきだったでしょう。
これくらいならまだ許容範囲ですが、「京阪神最新ライバル模様」の記事にはどうしても看過できない箇所があります。以下、その部分を引用します。
「京阪本線は淀川右岸を走る阪急やJR京都線とは違い、唯一、淀川左岸をテリトリーとする。かつ、曲線が多い線形から特急でも速度が遅く、大阪~京都間の競争では元から分が悪かったため、沿線からの需要を確実につかむ方針に転換したのもひと足早かった。平日朝の特急の中書島停車が始まり、七条~京橋間ノンストップ運転から途中駅停車に転じたのは1993年のことだった」
京阪特急は1950(昭和25)年に運転を開始しましたが、『鉄道ピクトリアル』2009年8月増刊号によれば、1951(昭和26)年に京阪26%、阪急35%、国鉄39%だった京阪間直通輸送のシェアは、1955(昭和30)年に京阪34%、阪急30%、国鉄36%となって京阪が阪急を逆転しました。
また、寺本光輝『国鉄・JR関西圏近郊電車発達史』によれば、1961(昭和36)年10月当時のシェアは「国鉄と京阪が4に対し、阪急は2だった」とのことです。これのどこが「元から分が悪かった」のでしょうか。特に京橋から京都方面へは京阪が最短かつ最速のルートとなるケースが多く、競争力は決して低くないのです。
『鉄道ピクトリアル』1991年12月増刊号では、1990(平成2)年度の京阪の直通旅客は1日平均で47,753人となっています。JRと阪急の京阪間直通客数が分からないので直接の比較はできませんが、『鉄道ピクトリアル』1998年12月増刊号によれば、阪急の阪神間直通客数が全盛期で推定1日平均4.1万人なので、それを上回る規模です。
京阪が「沿線からの需要を確実につかむ方針に転換したのもひと足早かった」というのも嘘八百です。阪急は高槻市に停車する通勤特急を昭和30年代から運行しており、1997(平成9)年には特急も終日停車となりました。JRの新快速も1990(平成2)年に昼間時の高槻停車を開始し、1997(平成9)年からは終日停車しています。
一方で、京阪は平日朝の淀屋橋行き特急を1993(平成5)年から中書島に、1997(平成9)年から枚方市に停めるようになりましたが、1日わずか6本からのスタートでした。
2000(平成12)年の丹波橋・中書島終日停車、2003(平成15)年の樟葉・枚方市停車(K特急→快速特急は通過)、2011(平成23)年5月28日の快速特急廃止でノンストップ運転は途絶えましたが、それから半年と経たない10月22日に臨時運転ながら快速特急を京橋~七条間無停車に改めて復活させ、現在はスピードアップした上で定期運転に昇格させています。
このように、最もノンストップ運転にこだわってきたのが京阪なのは「史実」であり、それをねじ曲げるのは「歴史の改竄」に他なりません。そもそも、淀川左岸をほぼ独占できる京阪は、途中駅停車の動機が阪急やJRより弱くなって当然なのです。
「京阪神最新ライバル模様」の記者は阪急沿線の出身らしく、阪急に特段の思い入れを持っているようです。かつ「京阪間ライバル特急はいま」の執筆者とは十中八九別人です。
「京阪間ライバル特急はいま」の記事には、朝ラッシュ時の京阪の特急に関して「着席している人は丹波橋や中書島でも変わっておらず、すなわち京都中心部から乗り通している。阪急の動きとは少し違うようだ」という描写がありますが、そういった印象を覆したい意図があったのかもしれません。
しかし、読者が知りたいのは記者の個人的な嗜好ではなく、客観的な事実です。ましてや、編集部内の小競り合いなど見たくもありません。歯に衣着せぬ表現が許されるなら、この記者は『鉄道ジャーナル』の晩節を汚した戦犯の一人です。
京阪を批判したいのなら、むしろ特急に力を入れ過ぎて急行との格差が必要以上に広がったことを問題視すべきだったでしょう。拙著【京阪神間直通輸送の復興計画】 で述べたように、京阪の場合は特急ではなく急行の劣化が、阪急やJRに対する競争力を弱めたと考えられるからです。
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