京阪神間の虚像と実像 | 京阪大津線の復興研究所

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大津線とは、京阪の京津線と石山坂本線の総称です。
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そのために、京阪線や他社の例も積極的に取り上げます。
なお、記事と無関係なコメントはご遠慮ください。

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京阪間直通輸送におけるJRの競争力があまり向上していないことは、阪神間と比較すればより明確になります。国鉄最後のダイヤ改正である1986(昭和61)年11月1日より前は、大阪―三ノ宮間の30.6kmに新快速で26分・快速で29分を要し、表定速度は70.6km/h・63.3km/hに過ぎませんでした。

 

京都―大阪間42.8kmは新快速で29分、表定速度は88.6km/hだったので、いかに阪神間を「流して」いたかが分かります。当時の梅田―三宮間は阪急の特急が27分で10分毎、阪神の特急が29分で12分毎であり、運賃はいずれも国鉄より150円安い230円だったため、国鉄の出る幕はない状況でした。

 

これが、1986(昭和61)年11月1日の改正により、新快速23分・快速26分に短縮されました。加えて、大阪駅で行われていた快速の新快速待避がなくなり、両者がほぼ等間隔で発車するようになって利便性が高まりました。ただ、それでもまだ京阪間より遅く、運賃格差も大きかったため、阪急・阪神に脅威を与えるには至りませんでした。

 

翻って現在では、大阪―三ノ宮間を新快速で上り20分・下り21分、快速で27分、運賃は420円です。新快速はかつて同区間ノンストップでしたが、現在は尼崎と芦屋に停まります。しかし、最高速度が130km/hに向上したため所要時間は短縮されており、上りの表定速度は京阪間を上回る91.8km/hにも達しています。また、京阪間と違って快速が新快速に追い越されないため、合わせて1時間に8本利用できるのも強みです。

 

対する阪急の特急は27分、阪神の直通特急・特急は31分でいずれも10分毎・330円です。京阪間より運賃格差が小さく、かつターミナルの位置が同じであるため、「震災復興」を差し引いてもJRが優位であることは確かです。阪急神戸線の直通客が1日最大1.4万人逸走したのも頷けます。

 

このように、そもそも阪神間と京阪間を同列に論じること自体に無理があるのです。阪急京都線の特急が停車駅を増やしたのは、京阪間直通客が減ったからではありません。京都線にとって深刻なのは、より直接的にJRと競合する高槻市や茨木市などの中間駅の利用減であり、これを食い止めるために京阪間直通輸送を犠牲にしてまで停車駅増を図ったのです。

 

阪急京都線はJRとの並走区間が長いため、京阪間直通客も中間駅と同じようにJRに侵食されたという印象を持たれがちです。しかし、京都駅に発着するJRが、阪急の烏丸・河原町への直通客をどうやって奪うというのでしょうか。

 

最も有効な手段となり得るのは、竹田から京都駅・四条(烏丸)を経て国際会館に至る京都市営地下鉄烏丸線です。烏丸線建設の一番の動機は、都心から南に外れた京都駅と市内の中心部を結ぶことにありました。中でも、阪急との交点である四条烏丸は市内最大のビジネス街であり、烏丸線はここ以上に重要な箇所を通っていません。言い換えれば、阪急にとって四条烏丸は地下鉄との接続駅である以前に、最終目的地としての性格が強い駅だということです。

 

JRの大阪―京都間は新快速で29分、乗り換え時間6分で京都―四条(烏丸)間が3分、合計38分です。阪急の梅田―烏丸間は40分なのでわずかにJR経由が速いですが、運賃は阪急の410円に対し、JRは580円+地下鉄220円の800円にも達します。乗り換えの手間などを考え合わせても、この条件下でJRを選ぶ人はいないでしょう。

 

一方、地下鉄烏丸線の国際会館方面へ向かう場合、乗り換え時間を6分とすると、京都―四条(烏丸)間の所要時間を含めてもJR経由が8分早くなります。昼間時の烏丸線は7.5分毎の運転なので、実質1本分の差が付くことになります。

 

ただ、烏丸線の沿線に多い大学への通学輸送に関しては、定期運賃に差が付きます。同志社大学最寄りの今出川を例に挙げると、1ヵ月定期の場合、阪急梅田―烏丸間が5,240円、四条―今出川間が7,860円、合計13,100円です。これに対して、JRの大阪―京都間は7,660円、京都―今出川間が7,860円、合計15,520円であり、阪急経由との差額は2,420円です。

 

わずか3.1kmに過ぎない地下鉄の四条―今出川間の通学定期運賃が京阪間より高いのは驚きですが、いずれにしても阪急の通学定期割引率がJRより大きいため、阪急経由のほうが安くなります。「1ヵ月2,420円」を高いと見るか安いと見るかは評価の分かれるところですが、安さ重視なら阪急、速さ重視ならJRという「棲み分け」が定着しているのは間違いないでしょう。

 

以上のように、京阪間直通輸送における阪急とJRの関係はあまり流動的ではないと考えられます。ましてや、京都以東の滋賀県下から大阪への直通需要は、京阪はともかく阪急には初めから無縁のものであり、奪うことも奪われることもない輸送領域です。「京阪間直通旅客はその多くがJRに移り」という見解がいかに安直なものであるかが分かります。

 

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