「京阪間ライバル特急はいま」の記事で話題にのぼっていた「大阪ステーションシティ」は、2011(平成23)年5月4日に開業したJR大阪駅前の複合施設です。この施設は本当に阪急京都線梅田駅の利用客を減らしたのでしょうか。統計で確認する必要があります。
鉄道の旅客動向を示した代表的な統計書の一つに『都市交通年報』があります。本書は一般財団法人運輸政策研究機構によって毎年発行され、三大都市圏の主要路線の各駅別・方向別の乗降客数などを記しています。
阪急に関しては、2010(平成22)年11月9日(火)実施の交通量調査結果が『平成24年版 都市交通年報』に、2011(平成23)年11月8日(火)の結果が『平成25年版 都市交通年報』に、それぞれ記載されています。両者を比較すれば、「大阪ステーションシティ」開業前後の阪急京都線梅田駅の乗降客数の変化が明らかになります。
2010(平成22)年11月9日(火)の阪急京都線梅田駅は、定期外降車客が36,625人、定期外乗車客が40,018人、定期乗降客が53,620人、合計130,263人です。一方、2011(平成23)年11月8日(火)は、定期外降車客が37,114人、定期外乗車客が41,035人、定期乗降客が54,902人、合計133,051人です。
増えています。減ったなどと誰が言ったのでしょうか。
『平成25年版 都市交通年報』は2016(平成28)年2月発行なので、「京阪間ライバル特急はいま」の記事を掲載した『鉄道ジャーナル』2012年3月号の編集段階では存在していません。しかし、記載されている交通量調査結果は2011(平成23)年11月8日のものなので、阪急に直接取材すれば聞き出せたはずです。ただ、それにはその時点で入手できる『都市交通年報』の最新版を携えて、「ここからどう変化したか」という聞き方をするのが当然の姿勢だったでしょう。
当記事でも阪急への直接取材は行われたようですが、本件に関する結果は、「通勤特急の乗車で気になった十三~梅田間の件だが、大阪ステーションシティ効果で梅田全体の集客数は高まっており、ターミナルを置く各社共同で誘客策を展開している」との一文でお茶を濁しています。
「十三で空いた」→「梅田が減ったに違いない」→「実は増えていると言われた」。これが取材と言えるでしょうか。交通量調査の結果を聞き出して裏付けを取らないことには話になりません。
阪急側からすれば、梅田における地位が低下したという事実無根の話を広められては企業イメージが傷つくので、自ら数値を提示して明確に否定するという判断もあり得たはずです。それをしなかったのは、する価値もないとみなしたからでしょう。
阪急に限らず、多くの鉄道事業者にとってメディアとは大手新聞社やテレビ局を指し、鉄道専門誌などは何ほどの影響力もないと考えている節があり、その傾向は年々高まっているように思われます。本件についても、もし同じ取材を大手のマスコミがしていたら、阪急は交通量調査の結果を公表していたのではないでしょうか。
ともかく、「京阪間ライバル特急はいま」のような取材姿勢では、鉄道専門誌が軽く扱われるのも無理はありません。「鉄道ジャーナリズムの復興」は、いまや切実な課題です。
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